クリスマス特別編おまけ.『選択:ヒロキを迎えに行く』 <12月25日 AM02:16> 店長に挨拶して店の裏口から出ると、外はすっかり白い絨毯で覆われていた。大輝はそれを丸くした目で嬉しそうに眺め、まだ足跡の付いていない場所を探して跳ねた。きゅっと軽い音がして、雪の厚さの分だけ体重が移動する。そうやって下ばかり見て進んでいたら、ぽすりと額を何かにぶつけた。軽い衝撃に目を閉じるが、それがなんなのか分かっている大輝は、笑みを浮かべて顔を上げた。 「稔!」 「おう、お疲れさん」 すっきりとしたフォルムのコートに身を包み、ポケットに入れていた手を出して木坂は大輝を抱き寄せた。その腕は服越しにも分かるくらい冷たく、大輝は顔だけ上げて木坂を仰いだ。 「稔、冷たい。ぎりぎりに来てって、言ってるのに」 「うん? 勿論ぎりぎりに来たぜ。今日は歩きだったから、ちょっと冷えてるだけだ」 嘘だ。一時間ほど前から、近くの電柱に隠れて店内を窺っていたのを大輝は気付いている。そういうのを知られたくない人だというのは分かっていたが、少しばかりムっとする。 「それより早く帰ろうぜ。今日は虎の旦那から色々いーもん貰ってきたからよ」 「舟木さんから?」 その名前を聞いただけで顔が赤くなるのは、何も舟木に懸想をしているからではない。その名前によって思い出されるのは、その人が店から拝借してきたという変な道具ばかりだからだ。舟木の店にあるコスチュームで、大輝が袖を通していないものは恐らくない。舟木が、まずは木坂に預けてその具合を聞いてから使用するためだ。AV男優という仕事柄そういう目の肥えている木坂の好評を得られれば、ひとまずは満足なのだろう。 だが、拝借する内のいくつかはそのまま木坂の家に残る場合の方が多い。木坂か大輝、どちらかが気に入ると舟木は仕方なさそうにしながらも譲ってくれるからだ。おかげで、木坂のコレクションはバカみたいに増えている。 大輝もそれらを使うのが嫌いなわけではないが、一番欲しいのはいつだって別のものだ。そう思って木坂が中を物色している紙袋をちらりと見て、次に木坂の顔を窺った。ちょうど木坂もこちらを見たところで、はたりと視線が咬み合う。 「まあ、まずは風呂だな。中も外も、きっちり奇麗にしてやるからな」 にかりと笑われて、大輝もつられて笑みを返した。木坂が喜ぶのなら、どちらでもいいか。それに、木坂が道具を使うのは、悶え苦しむ大輝の姿をじっくりと見たいからだ。その視線に舐められている間は、大輝も幸せだった。 「稔、手繋いで」 「おう」 ただ繋ぐだけではなく、ぴっとりと体を寄せて、大輝は木坂の腕を温めようとした。そんなことは気付かない木坂が、可愛いなあと頬を緩める。頭の中はすれ違いの嵐だったが、二人はまあ幸せのようである。 <12月25日 AM03:21 木坂邸、寝室> クリスマス特別仕様だ、と言われて着せられたのは、黒い耳に、黒い尻尾の付いたモヘアの短パンだった。何がクリスマス仕様なのかと問うたら、尻尾に縛られた鈴付きの赤いリボンと、これまた可愛い装飾の首輪だという。胸に開いたピアスにも小さな鈴を付け、その出来上がりに木坂はうっとりとビデオを回していた。 「にゃあって言って、にゃあって。大輝、マジ可愛い・・・」 猫の格好をしているときは、おねだり以外は人の言葉を話さない方が、木坂は喜ぶ。そう知っているので、大輝は精一杯可愛く一鳴きした。それに木坂が悶え、照れる大輝の体が熱くなる。二人の間だけで成り立つ、完璧なギブアンドテイクだ。 「にゃあ」 「はいはい、今遊んでやるからな」 そう言うと、木坂はビデオを三脚にセットすると、細い棒のようなものを持って近付いてきた。先に球状の毛玉の付いた、一見すると猫をじゃらすときに使われるものに見える。しかしその根本部分には四角い電池ケースがあり、先がローターになっていることが容易に知れた。 「これ可愛くね? これ見た瞬間、今日大輝に何着せるか決まったんだよねぇ」 他にもサンタクロースやトナカイの衣装なんかも揃えていたようだ。恐らく、今日明日中には使われるのではないだろうか。 動悸を激しくさせる大輝の前でそのローターをちらつかせ、木坂はうっとりと笑った。フワフワの黒い毛で覆われたベルトの付いた手を取り、その指先を唇の先で挟む。 「んじゃ、足開きな。どうお願いするか、分かってるだろ?」 こくりと喉を鳴らし、大輝はそろそろと立てた両足を開いていく。両手は少し後ろに突き、弱く握る。正面を全てさらすような格好になり、赤く滲む目元で木坂を見上げた。こくり、もう一度喉が鳴る。 「い、虐めてくださ・・・ぃ」 真っ赤になって震える声で言う大輝の顔に、微かに震えるローターを当てた。毛の部分が撫でるように刺激し、空気を吸うような声を上げる。 「ちゃんとこっち見て。それに、もっとはっきり言わないと何もしてやらないよ?」 「っふ・・・」 にやにやと意地の悪そうな声に言われ、大輝は唇を戦慄かせた。その震えを抑えるようにきゅっと引き結び、深呼吸する。 「僕の、鈴の付いてる・・・っ、稔・・・」 ただそうしているだけで、大輝の小さな性器は短パンの中で窮屈そうにしていた。木坂がそれを見て、くっと喉の奥で笑う。へその辺りにローターを当て、それを僅かに動かしながら顔を近付けた。 「いやらしいな、大輝。もうこっち触って欲しいのか?」 シーツを掴み、大輝はこくこくと頷いた。その耳をじっくりと舐め上げ、こめかみにキスをする。 「駄目だぜ、まだ我慢。気持ちよくなりたいだろ?」 「っひゃ、ぁ・・・みの、にゃあぁん・・・」 耳の硬い部分を口に含んで転がすようにすると、ただでさえ限界に近かった腕が肘からかくりと力を抜いた。後ろに倒れるのを木坂が追い、胸にある鈴を指先で弾く。びくんっと大輝の痩躯が跳ね、反射で両手が顔を覆う。 「こら、隠すな。ずっと俺だけ見てろって言ってあるだろ?」 「で、でも・・・」 「でも?」 手をずらして目だけ出し、木坂の挑発するような視線に恐る恐るぶつける。 「もう、欲しい・・・っ」 思わずぎゅっと目を閉じる大輝を諌めるように、木坂は振動を最大にしたローターを胸に押し当てた。ちりちりと鈴が鳴るのに合わせ、大輝の体が何度も跳ねる。高い声がひっきりなしに口から飛び出し、次第に泣くようなものに変わっていく。 「にぁ、やだやだ・・・っあっにゃん、にゃふ・・・っん!」 短パンを押し上げる性器から透明な液が染み出し、黒い生地を更に暗い色にしていく。溢れる快感を逸らそうと捻られる腰が、視覚から木坂の興奮を高めた。 「みの、稔・・・やだ、イっちゃ・・・胸でイっちゃ、よ・・・」 「うん? ああ、それもいいな。イってみせろよ、大輝」 片方にはローターを当てたまま、もう片方は指で埋まるほど転がした。高い悲鳴が上がり、背中が折れそうなほど反り返る。短パンの締め付けもあり、大輝はびくびくと快感の波に悶えた。そして一際艶美な声を上げたかと思うと、急にぐったりと体の力を抜いた。木坂がそれに口角を上げ、一切の責めをやめて上体を抱き起こした。可哀そうなほど荒い呼吸を繰り返す大輝の背中や頭を撫でてやりながら、落ち着くのを待つ。 「大丈夫か? よく、頑張ったな」 額や頬にキスすると、その皮膚さえも震えているように思われた。ついと短パンを下ろせば、むわっとした上気を上げて、白いものが顔を見せる。 「調教の成果が出たな。お前、ますます可愛いよ」 くりくりと胸のピアスを弄ると、敏感になっているのか身を捩って悩ましげな声を上げた。その唇にキスを落とし、舌を吸い上げる。 「どうする、休むか? それとも、大輝の好きなもの喰う?」 いやらしい笑いを浮かべる木坂に、大輝は頷いた。まだ上手く力の入れられない腕を伸ばしてもう一度キスをねだり、顔が離れると跪くように体勢を変える。 「手使うなよ」 その言葉で慌てて手を止め。木坂のジーンズのジッパーに歯を当てた。ち、と下げ、少し苦労してボタンも外す。 もう硬く勃起している性器は、下着を僅かにずらすだけでびょんと飛び出した。その形に目を奪われつつ、先端の膨らみを口に含んだ。唾液を溢れさせながら喉の奥で吸い込み、顔を上下させる。 「っん、もっと腰上げな。手は胸でも弄ってろ」 言われれば、従順にそれに従う。木坂の手が、短パンを少しずつずらしていく。 「んぅ、んんん!」 さっき放ったものが尻の谷間を伝っていたのか、木坂が指を忍び込ませた場所は既に潤っていた。少しなじませるように擦るだけで簡単に柔らかくなり、自然木坂の指を吸い込もうと収縮する。 「柔らかいな。もう二本いけるか?」 「んふっ! う! うぅん・・・っ」 「・・・流石にきついか。もう少し力抜きな」 短パンに包まれた状態では難しい。そう思って、大輝は片方の手で性急に脱いだ。片足にひっかけるようにしてそれを残し、うつ伏せのまま足を大きく広げる。 「そう、偉いぞ。流石は俺の奥さん」 褒められると嬉しくて堪らない。それを伝えるように奉仕する動きを早めたら、肩を掴んだ手に引き離された。ちゅるん、と音がしたかと思うような感覚で、唇から性器が抜ける。 「今日は口より、中に出したい」 少し熱っぽい声に言われ、大輝は胸をきゅんとさせた。口端から垂れるものを拭い、浮かされたように頷く。 「乗るだろ? いやーらしく動いて、俺をイカせて?」 光る唇を指で摘まれて、大輝はまた頷いた。早く早く、その熱を入れて欲しい。 自ら跨って腰を支えてもらい、大輝は全体重を一気にそこへかけた。 <12月25日 AM11:40 木坂邸、寝室> 喉が貼り付くような感じに目を開けると、そとはすっかり明るくなっていた。カーテン越しの外界は既にいつも通りで、眩しさに目を擦る。何か飲みたいと思って体を起こそうとしたが、全身が一日中泳いだ後のように重くて動かなかった。諦めて毛布に戻る大輝の体を、木坂が抱き寄せる。 「どうした? 何か欲しいのか?」 「ん・・・お水・・・」 「あー・・・っし、ちょっと待ってろ」 こちらも少し涸れた声でそう言い、大輝の頭をくしゃくしゃとしてからベッドを降りた。全裸のまま欠伸をし、キッチンへと歩いていく。 昨夜も激しかった。騎上位で一度したあと、そのまま倒して2ラウンド目へ。少しの休憩を挟んだ後でまた繋がり、その後何回かののちに大輝が気を失うようにして眠りに就いた。だが気持ち悪い感じはしないので、木坂が寝る前に簡単な後始末だけはしてくれていたようだ。嬉しさと情けなさがせめぎ合い、小さく唸って枕に突っ伏した。 「・・・あれ?」 羽根のたくさん詰まった枕の下に、何かある。ごそごそと探ると、それは簡易包装された小さな箱だった。 「これ、」 「あ! お前、何見つけちゃってんの!」 戻ってきた木坂に指摘され、大輝は慌てて枕の下にそれを戻した。その行動に、木坂が噴出すようにして笑う。 「今更だっての。それに怒ってるわけじゃないから、出していいよ」 そう言われて、大輝は再びそれを引きずり出した。木坂が毛布に下半身を戻しながら大輝を片腕で引き寄せ、持ってきた水を口に含む。 「ん」 促されて、大輝は少し顔を上向けた。その唇に木坂が口を付け、含んだ水を流し込む。ぬるい水に眉が寄るが、乾ききった体には心地よかった。もう一口、と唇を動かしてねだる。 何回かそれを繰り返し、コップの水が半分以下になったところで木坂がヘッドボードにコップを置いた。大輝の手から箱を取り、細いリボンをしゅるりと抜く。 「へっへっへ、俺からのプレゼント」 「え? でも僕、なんも用意してない・・・」 「お前のプレゼントはお前だろ? 美味しくいただきました」 にやけ顔で言われ、言葉を失って俯く。その視線の先に箱を持ってきて、回した腕でそれを開けた。二つ並んだ、銀色のリング。 「これ・・・」 「養子縁組とはいえ結婚は結婚だろ。ちゃんと渡したく・・・って?」 言い切る前に、大輝の目から涙が零れるのを見て木坂は黙り込んだ。指輪のケースを横に置き、呆れたようにその体を抱きしめる。 「泣くのはセックスんときだけって言ったろ・・・」 溜め息交じりではあったが、木坂の手は優しく大輝の頭を撫でた。そのリズムに合わせるように涙を零し、ぎゅうぎゅうと回した腕に力を込める。 「よしよし、もう泣くな。クリスマスするんだろ?」 鼻をすすりながら、大輝はもうそんなことしなくてもいいと思っていた。クリスマスのご馳走も、ケーキも、シャンパンも、木坂の存在の前では価値がないも同然だ。 離れなくなってしまった大輝に嘆息し、木坂はその体を抱いたまま横になった。宥めるように背中をさすり、頭を寄せてキスをする。 「愛してんぜ、大輝。俺と結婚してください」 直接的な言葉に、またぞろ涙が溢れた。裸の胸に顔を押し当てて、何度も頷く。 外では、この辺りでは珍しい雪の命が、明るい陽光に射されて儚く消え去ろうとしている。 その何十倍も長いとはいえ、人の一生だって短い。その中で最愛の人に会うことも、困難を極める。 大輝は、この出会いに感謝していた。明確に誰へとは分からないが、神様がいるのならそれでもいい。放っておかれたとはいえ、自分を産んでくれた親に感謝してもいいくらいだ。 木坂と出会えたことは、大輝にとっては万に一つもない奇跡だった。その人と、これから先も一緒にいられるなんて。感極まって泣く大輝の頭を、木坂の手が優しく撫でた。 「来年はイヴにクリスマスしようなぁ。生クリーム泡立てて、たくさんのフルーツでお前のこと飾ったりしてさ」 疑うことなく囁かれる来年の約束が嬉しい。愛しさが溢れて、止まらない。 どうか、こんな日があと何十回も繰り返せますように。 木坂の胸の鼓動を聞きながら、大輝はそんなことを切に願っては止まなかった。 Merry Xmas!! 終。 12.29 PM000:50up さりげに一昨日と同じ時間にup。あと一つ・・・! |