クリスマス特別編おまけ.『選択:そろそろ店に帰る』


<12月25日 AM00:37>

 恋人たちの日、クリズマス・イヴ。こんな日でも、いや、こんな日だからこそ、風俗店は客の入りが少しばかりアップする。店側としてもその心理が分からなくもないから、舟木大河の指揮する『バタフライ』では毎年ささやかなイベントを行うのだが。
 今夜は、もう昨夜というべきか、兎に角数年来の友人に呼ばれたので店の経営を他の人間に押し付けて席を外した。本当は、すぐに帰る予定だったので、特に何も言わずに。
 それが、案外長居をすることになってしまった。
 数ヶ月振りになる友人は、そいつが以前ホストをやっていたときに知り合った。明らかに裏の世界の匂いを漂わせる舟木に対して特に変わった態度を取らなかったところを気に入り、10近く年が離れているにも関わらず親しくなった。後から気付いたのだが、そいつはただ単純にバカなだけだった。肝が据わっていたのでもなんでもなく、舟木が発するピリっとした空気を、何一つ感じ取れていないだけだったのだ。
 そうと知ってからも、舟木はその男と話すのが好きでちょくちょく会っていた。自分をヤクザとして見ない、貴重な友人として。
 それが、何故最近は会ってなかったのだろうか。その疑問は、割とすぐに解決した。店の扉を押し開けて、一番に目に入る青年。モップを持ったまま振り返るその顔は驚きの後すぐ怒りの表情に変わったが、それでも一目見るだけで愛しいと思える。近付く顔は相変わらず怒っていたが、舟木はそれを受け流すような笑みで、その青年の愚痴を聞いた。
「ちょっと大河さん、どこ行ってたんだよ! 今日はお客さんが一杯来るから大変だって、あんた言ってたじゃん!」
「ああ、悪い悪い。ところで、亀井はいるか?」
「亀井さん? 亀井さんなら、さっき売り上げ確認するって事務所に・・・」
「じゃあ受付空けておいても問題ないな。行くぞ」
「え? 行くってどこ・・・に」
 目をぱちくりさせて混乱する青年の手からモップを奪い、その細身を肩に担いだ。途中事務室に寄り、実質右腕である若い男に声をかける。少し倉庫に行くと言えば、男は何も言わずに頷いた。その会話で青年も何をされるのか分かったようで、突然足をバタつかせ始める。
「っちょ、何考えてんの・・・! さっきの俺の話聞いて・・・」
「あ? いいじゃねぇか、今は混んでないんだから。いいから付き合えよ、巳春」
 凶悪そうな笑顔で言われ、葛井巳春は諦めるように口を閉じた。舟木という男は、自分がこうと決めたらテコでも動かない。これ以上抵抗を示したところで、ぼこぼこに殴られるのがオチだ。ならば、大人しくその欲求に従ったほうがいい。
「・・・でもさ、一言くらい言うことあるんじゃないの?」
「あん? 謝って欲しいのか?」
「それは別に、いいんだけど」
 拗ねたように唇を尖らせるのを見て、舟木はああと頷いた。前に担ぎ直し、まるで姫抱きのようにして顔を近付けた。
「メリークリスマス、か?」
「・・・・・・」
 眉を寄せて顔を赤くする葛井に、舟木は軽くキスをした。


<12月25日 AM01:45  『バタフライ』倉庫内>

「・・・い、おいクズ、寝るな」
「ん・・・」
 前戯もそこそこに挿入し、中だけの刺激で散々泣かせていたら一瞬意識を飛ばした。バックから突く体勢を反転させ、倉庫の棚と自分とで挟んで持ち上げる。力の抜け切っている腕を首に回させ、ゆさりと腰を動かした。
「大丈夫か? 俺はまだ出してもいないぞ?」
 鼻先で額を擦ると、葛井は色めいた声で呻いて舟木を恨みがましくみた。唇を尖らせて、不満も露わに抗議する。
「あんたが、激しすぎるんだろ・・・なんだよ、最近忙しくて疲れてんじゃなかったのかよ」
「ん? ああ、ちょっとあてられちまってな。若い奴らはヤることがすげーよ」
「はぁ?」
 さっきまでの突き破りそうな抽出をやめ、ゆるゆると肉をぬめりを利用して摩擦するだけの動きに変える。じっくりと責められる感触に葛井が頬を染め、回した腕に自然と力が込められた。
「変な奴らでなー。木坂は知ってるだろ?」
「あの、料理の下手な恋人の・・・いる?」
「そうそう。今日はそいつに呼び出されて行ったんだが、そこで会った男が面白くてよ」
 ただ快感だけを引き出そうという動きに、葛井は背中を棚に押し付けて悶えた。普段は乱暴にしか抱かれないから、たまにこういう優しいことをされると参る。もう何度か達しているはずなのに、すぐに熱を取り戻してしまう。
「その人、何が・・・ぁん、面白かった、の・・・?」
「んん? いやさ、顔はアイドルみたいなのに、肝は据わってるわプレイは鬼畜だわ・・・くく、あの彼氏も大変そうだな」
 楽しそうな言い草に、葛井はくすりと笑った。恐い顔をしているから、舟木が人と楽しく会話するなんて珍しいことだ。本当は人一倍情緒に溢れていて、涙脆いくせに。
「楽しかったんだ?」
「まあな。だが途中から早くお前に突っ込みてぇなーとか考えちまって、大変だったぜ」
「一人だけいいクリスマスしちゃって」
「なんだ、拗ねてんのか?」
「別に」
 嘘ではない。いきなり店を抜け出した所為で忙しかったのには怒っているが、そっちは亀井や店の女の子たちの頑張りでなんとかなったわけだし。
「それに俺とのクリスマスは、今日してくれるんでしょ?」
「ああ。ちゃんとプレゼントも用意してやったからな」
「言っちゃう? 普通」
 くすくすと笑うと、舟木は弧を描く唇に自分のを押し当ててきた。幸せな感触に目を閉じ、再び始まる律動に身を任せる。
「・・・っは、あ・・・そこ、もっと、突いて・・・」
 片足を膝の裏から持ち上げ、肩にかける。より深い挿入に葛井が呻くが、すぐに快感の悦びに声帯を甘く震わせた。その声を聞きながら、舟木も己を高めていく。
「あい、つらの相手も大概だが・・・お前が一番淫乱で最高だよ、巳春」
「それ・・・あんま嬉しく、ないな」
 ぎしぎしと棚を鳴らし、葛井は背中を反らせた。ひくひくと結合部が痙攣しながら舟木を締め付け、舟木の余裕もなくしていく。
「出すぞ、巳春」
「うん、いっぱい出して・・・大河さんの、好きっ・・・」
 宣言通りたくさん出されたものに敏感な部分を叩かれ、その感覚で葛井も自分と舟木の腹にびたびたと精液を吐き出した。もう出ないと思っていたが、意外にもその量は多く。それが尿道を通る刺激すら、葛井に痛みを包容した甘い歓楽を引き起こす。細い悲鳴は舟木の耳を刺激し、吐き出しながらなお突き動かした。葛井の細身が、壊れるのではというほど前後する。
「あぁっあっ、大河さ・・・きもち、よ・・・っ」
「俺もだ。・・・もっと締められるだろ、やれ」
「ひん・・・!」
 きりりと乳首を捻られ、葛井は艶めいた悲鳴を上げた。同時に中がきつく締まり、舟木が満足そうに喉を鳴らす。
 本当にこの体は最高だ。木坂やもう一人の男がいくら自分の恋人を自慢しようとも、この誘惑には逆らえそうにない。強く突き上げ、精液でどろどろになった内部をかき回す。
 葛井の声が途切れ始めた。強すぎる快感に、またも意識が薄れ掛けているのだろう。それを噛み付くようなキスで引き戻しながら、何度も肉を抉っては嬌声を上げさせた。
 薄暗い倉庫の中で、白い体が悩ましげに揺れる。
 そういえば、外界では雪が降っているんだったか。葛井の肢体にそんなことを思いながら、舟木は再び最奥にその感情の波を強く吐き出した。


<12月25日 AM3:14  『バタフライ』事務所>

「・・・腰痛い」
 使われていない毛布に包まり、葛井があてこするような声で呟いた。それを背中に受けながら、亀井がチェックしてくれた売り上げの画面をスクロールする。かりかりと頭を掻くのは、やりすぎたと思わないところが多少なりともあるからだ。
「何、少し寝りゃ回復すんだろ。そんな酷いことしたわけでもないし?」
「繋がったまま三度も出すのは、酷いことじゃないのかよ・・・」
「はっはっは」
 空笑いに、葛井は一瞬だけ不満そうな顔をし、すぐに呆れたような笑みを漏らした。額に貼る冷却シートが、疲れた体と協働して眠気を誘う。
「そういえば、大河さんのいない間にリューさんが来たよ」
「あん? なんの用で」
「クリスマスのお祝いにって。その辺にワイン置いてなかった?」
「あー・・・ああ、あれか。また高いの買ってきたな」
 ひょいと持ち上げ、その瓶をためつ眇めつする。そして振り返ると、葛井の顔を探るように見た。
「それだけだろうな? 他に、何かしていかなかったか?」
「そ、それだけだよ。あと、正月には実家に顔くらい出せって」
「・・・面倒な」
 リューこと舟木竜也は、舟木の兄であり上司ということで、舟木はなかなか頭が上がらない。しかし最近は妻のある身で葛井にちょっかいをかけてくるので、それだけは許せんとよく反発している。それでも本質のところは仲が良いのだと、葛井はぼんやりとだが分かっていた。
「面倒とか言わないで、行ってきなよ。会ってないんでしょ?」
「あいつ、そんなことも言ったのかよ」
 頷く葛井に、舟木はまた頭を掻いた。
 実家に顔見せすることが嫌なわけではない。葛井を一人にしたくないだけだ。葛井には、およそ親類と呼べる間柄の人間がいない。家族と過ごすのが当たり前のような日に、余り一人でいさせたくはなかった。
 唸っていると、葛井は特に分かってもいない様子で首を傾げた。恐らく、舟木がそんなに悩むほど実家を嫌っているとでも思っているんだろう。変なところを気にする奴だし、無駄に気を揉ませるのもあれなので頷いておいた。葛井の顔が、あからさまに嬉しそうなものになる。
「じゃあ、舟木さんのいない間におせちでも作ってるね。今年はかまぼこが高くて大変なんだけど・・・」
 舟木が立ち上がった所為でこの部屋唯一の照明が遮られ、葛井の顔に影が落ちる。それを追うように舟木の顔も近付き、ちゅっと軽くキスされた。
「・・・どしたの?」
「いや、別に?」
 そう言うが、舟木の顔はまだしたそうだった。呆れるように溜め息を吐いて、葛井が上体を起こす。
「もうちょっと真剣に仕事してよね・・・くびになっても知らないから」
「はは、誰がクビになんかなるかよ」
「オーナーだって、解任はあるでしょ・・・」
 皮肉ってはいるが、葛井は目を閉じてその口付けを受けた。自らも手を伸ばし、少し熱っぽい口内に舌を招き入れる。
 そうして暫く二人は甘い空気を漂わせていたのだが、開け放した扉を亀井がノックしたことにより中断せざるを得なかった。真っ赤になって亀井に弁解する葛井の横で、舟木がケタケタと笑っている。それに軽く怒りながら、葛井は来年もこうして過ごせればいいのにな、なんてぼんやり思っていた。


Merry Xmas!!






終。

12.27 PM000:50up
亀井っで誰やね? とか言わない。
亀井さんは舟木の右腕です。マネージャーみたいなものです。