クリスマス特別編おまけ.『選択:栄一と酒盛りする』 <12月24日 恐らく深夜頃 三角宅> 一口飲んで、ああヤバいと思った。 久々のアルコールは胃に沁みるが、それ以上に舌がこれを求めている。注がれるままに飲み続けたらきっと取り返しのつかないことになるだろうに、栄一はグラスを傾けるのを止められなかった。 というのも、三角の作ったケーキが美味すぎるのが悪い。程よい苦味と、口当たりのよい柔らかさ。これに合うアルコールが傍にあったら、それはもう永久運動というものだ。止めなければとは何度も思うのに、どうにも止められなかった。 そうこうしているうちにワインの瓶が空になり、勢い付いたまま缶チューハイにも手をだした。正直言うと、もう余り覚えてもいない。あー気持ちいいふわふわするなーなんて思い。 はっと気付いたときには、ベッドの上で裸になり、後輩の三角を組み敷いていた。 「あ・・・れ?」 「あ、もしかして正気に戻りました? 大丈夫ですか?」 「え? 俺、何して・・・」 跨る体は着衣のままで、その両腕は頭上でひとまとめにされている。状況から見てこれは自分がやったとしか思えないのだが、全く記憶にない。放心していると、くすくすと笑う三角に手を解くよう頼まれた。 「よかった、気付いてくれて。ヤられるのは構わないんですけど、それを栄先輩が覚えてなきゃつまらないですからね」 うっすらと跡の残る手首をこきりと動かし、三角はベッドの下から栄一のと思しき洋服を拾い上げた。それを頭から被せながら、未だ状況を理解していない栄一に向かって微笑んだ。 「聞きたいですか?」 「・・・あんま、聞きたくない・・・かな」 苦笑いというよりは、もはやそれは引きつり笑いだ。笑うしかないというような、自棄としか思えない顔。 頭痛も相俟って青ざめる栄一の頭を包むように撫で、三角がベッドを降りる。 「ひとまず水持ってきますね。下も履いておいてください」 言われて、恐る恐る肛門に触れた。とりあえず、挿入したような跡は見受けられない。そんな問題ではないだろうが、ほっと胸を撫で下ろした。 とにかく状況を整理しなくてはならない。缶チューハイを開けたところまでは覚えている。そこから先は、思い出そうとすると頭が酷く痛んで無理だった。また強い鈍痛が走り、それに呻いたところでコップを手に三角が姿を現した。 「辛そうですね。やっぱ、やめておけばよかったですかね」 「そう、だよ。お前が酒飲むなんて言わなければ・・・」 「でも最終的に飲むって決めたのは栄先輩ですし」 「う」 その通りだ。図星を射され、コップを受け取って目を逸らした。 「・・・で、何があったんだよ。ていうか俺、なんでお前のこと縛って・・・」 「まあ待ってください。ちゃんと順を追って説明してあげますから」 ね、と言われれば頷くしかない。半分ほど飲んだ水を奪われ、腰に回した手にゆっくりと上体を倒された。見つめ合ったまま横になる形となり、なんだかどきどきする。 「けい・・・?」 「まず栄先輩は、こうして俺に熱い視線を送ってきました」 「んな・・・っ」 「しっ、黙って。何があったか知りたいんでしょ?」 唇に人差し指を当てられ、中途半端に言葉を切った。三角が笑い、その指と入れ違いに唇を合わせられる。緩慢なキスに、腰が震える。 「最初は唇に。次は、首筋。襟元を開いて鎖骨にキスしたかと思うと、今度は耳に」 喋りながら言葉の通りにされ、ひくひくと瞼が揺れた。腰に添えられたままの手が微かに動くのも、栄一を心もとない気分にさせていく。 「けい、渓夜・・・」 腰の手が前に動いた。腹周りを辿るようにそろりと裾を捲り上げ、撫でていく。ぞくぞくとした痺れに、涙が滲むような心地がする。 「俺、ほんとにこんなこと・・・?」 「はい。暫く腹を撫でていたかと思うと、突然ベッドから降り、このように」 言うなり早業で両腕を拘束され、さっきの三角のような体勢になった。身動きが取れなくなり、はたと気付く。 「別に、再現する必要はないんじゃねぇのか? というか、なんでお前じゃなくて俺が脱がされてんだ?」 さっきのを再現するのならば、そろそろ三角が全裸にならなければ辻褄が合わなくなる。なのに、三角の手は履いたばかりの栄一のズボンにかかっていた。 「あ、バレましたか。ここからは俺のアドリブです」 「な・・・ぁ?」 「というか、最初から全部嘘です。酔っ払って前後不覚になった栄先輩に、俺が色々頼んでしてもらっただけです」 「はあぁ?」 事の仔細はこうだ。調子に乗って酒の殆どを開けた栄一は、酒を注いでくれる三角に対して頭を下げるようになった。妙な酔い方をするなぁなんて笑っていたのは最初の方だけで、途中からはなんでも言う事を聞くようになったので色々試してみたのだという。 唄えと言えば拳を利かせて唄い、脱げと言えば躊躇いもなく脱いだ。まるで宴会芸でもするようにテンションの上がる栄一が、正気に戻ったらどうなるのだろうか。こうなったらとことんまで混乱させてやろうということで、三角は自ら手首を拘束するように頼んだのだという。三角の言いなりであった栄一は嬉々としてそれに従い、そして結びきったところでふと我に還ったのである。つまり、まんまと三角の算段通りになったということで。 「まさかここまで上手くいくとは思ってませんでしたよ。栄先輩、まだ酔ってるんですか?」 そんなことを言いながら下を脱がせていき、裸になった下半身をうっとりと眺める。怒りやわけの分からない恥ずかしさで唇を戦慄かせる栄一を見下ろし、足首を掴んで持ち上げた。 「ま、結局は縛りたかっただけなんですけどね。最近はなかなかさせてもらえないから・・・」 「んで恋人とのエッチに縛り要素なんて入れなきゃなんねんだよ。バカか、お前は」 「はは、バカですよ。先輩ばか」 罵倒されたところで、怯みもしない。高く上げた足に唇を押し当て、ゆっくりとふくらはぎの横を舌でなぞっていった。ぞわぞわと快感の火種がそこに現れ、栄一が眉を寄せる。 「栄先輩、大人しいですね。怒ってないんですか?」 「一回りして、逆に情けねぇ、っよ」 膝の裏に吸い付かれ、ひくりと喉を鳴らした。次第に息が荒くなり、目元が赤く染まっていく。 「大人しいと縛った意味がなくなっちゃうんですけどね・・・まあいいか。楽しみましょう」 「楽しいのは、お前だけだろ」 呆れ返って毒しか出ないが、本当のところそこまでの怒りはない。なんというか、最近はもう諦めの方が先に出てくるのだ。 三角は片足を付け根までじっくりと舐めると、今度は跪くようにしてもう片方の足先に口付けた。親指の爪に唇を当て、恭しく手で持ち上げて口に含む。ぞわりとした感触に、栄一は唇を咬んだ。 「・・・なんだか、隷属してる気分です」 「縛ってるのはお前の方なのに、か?」 皮肉気な声が震えている。一本一本丁寧に指を舐められて、息も絶え絶えなのだ。 「俺はいつだって栄先輩の僕ですよ。栄先輩に命令されるなら、何をしたっていい」 栄一は鼻で笑ったが、その言葉が本気であることくらいは分かる。この男は本当に、栄一が言えば人すらも殺すだろう。それほどに、栄一のことを心酔している。 それはつまり、栄一にもそれが求められているということだ。人殺しとまではいかずとも、裏切りは許されない。栄一が何かしら三角の気持ちに反旗を翻すような行為をすれば、恐らく手酷い制裁を受けるであろう。それはきっと、最初の頃にあった行為なんて目ではないほどに。 三角の愛の言葉には、そんな脅迫めいた空気がいつでも感じられた。裏切る気があるわけでもないが、それでも万が一の可能性さえも考えたくない。本当にやっかいなものに捕まったと、栄一は常々思っていた。 「・・・ん、く」 指への愛撫が終わり、今度は足の甲をじっくりと舐め上げてきた。薄い皮の下にある骨に刺激が伝わり、そこから全身に痺れが湧いてくる。足の付け根にあるものも、少しずつ熱を持ち始めていた。 「渓夜、も・・・」 「まだ、です。もう少し、我慢してください」 なんでも従うと言った舌の根も乾かぬうちに、なんて奴だ。そう思ったが、口になんて出せなかった。余りにも丁寧に愛撫するものだから、意識が朦朧とする。触って欲しいと思う気持ちが爆発しそうで、縛られた手首をぎしぎしと動かした。 「手、傷めますよ?」 「うるせ・・・お前が早く触れば、こんなことには」 「誘ってるんですか?」 ふふっと笑われ、栄一は黙り込んだ。誘う必要なんてないくらい、勝手にするくせに。 下半身だけを丸出しに、足を開いている姿を想像して笑いたくなった。滑稽すぎて、みじめに思う暇もない。 「・・・ってる」 「はい?」 「誘ってるから、早く入れてくれ。もう、おかしくなりそうなんだ」 酒が入っている所為か、体がやけに熱い。中途半端に燃やされる快感に、頭のヒューズが飛びそうだ。 目を逸らして言った言葉に、三角は嬉しそうに笑って頷いた。ばさばさと服を脱いで、ベッドの近くにある引き出しからローションのボトルを出した。 「これももうなくなりそうですね。新しいのは、何色にしましょうか」 手の平に出しながらそんなことを聞いてくるが、栄一は答えようともしなかった。何を言っても、三角は自分の欲しいものにしか手を伸ばさないだろう。こいつは、そういう男だ。 立てた膝の間に少し温めたそれを塗られ、栄一は息を飲んだ。深い呼吸を繰り返しながら三角を見て、軽く笑う。 「どうしました?」 「クリスマスだってのに、お前は全く変化ないなと思って」 「えぇ?」 「無駄に冷静で、なんかムカつくって話だ」 自分ばかり高められて、面白くない。そう思って言ったのだが、三角の顔が不機嫌そうに歪むのを見て、栄一は目を丸くした。 「ど、どうした?」 「栄先輩が変なこと言うから。俺はいつだって、冷静なつもりないんですけどね」 ぺちゃりとローションでぬめる指を秘部に押し当て、ぐちゅぐちゅと中に塗り込み出した。手の平全体で押すように広げられ、腰が跳ねる。 「俺はいつだって、もの凄い自制心で自分を抑えているだけですよ。本気でやっていたら、先輩を殺しかねないから」 おざなりに慣らしたかと思うと、三角は太股を持ち上げて足の間に入ってきた。自然に広がるそこに熱いものがあてがわれ、息を飲む。 「大体、冷静だったら勃起なんてしませんよ。先輩って、時々失礼なこと言いますよね」 「んっ」 ず、と先端を埋められ、その熱さと硬さに背筋が震えた。カリの部分が埋まるときは、いつだって全身が緊張する。 「俺がどれだけ先輩のことを好きなのか、まだ理解していないっていうか。今日だって、俺は予定詰めるのに必死だったんですからね」 「んっあ、あぁ・・・っ」 じりじりと進んでくる太さに、目の前で火花が飛ぶような錯覚を覚えた。開け放した口から切れ切れに喘ぎ声が飛び出し、体の力を抜こうと必死になる。 「ケーキだって、先輩の好みに沿うように色々考えて・・・って、聞いてます?」 「聞い、てる・・・聞いてるから、もういい加減、黙れ」 ゆっくり進まれた所為で、すっかり体が熱くなってしまった。図らずしも焦らしプレイのようになってしまい、生殺しのような快感に栄一は悶えた。それを見て、三角がしまったと言うように舌を出した。 「ああ、ごめんなさい。だって栄先輩ってば、なんか酷いから」 酷いのはお前だ。というか、本当に冷静さを装っているだけなのかよ。お前の場合、わざとなんかに思えねぇってんだよ。 色々悪態を思い浮かべたが、口にすることは叶わなかった。火照った体が疼いて、もう苦しいくらいだ。 「早く・・・渓夜」 「はい、今すぐに」 しっとりと汗をかいた栄一の胸辺りに手をつき、前かがみになってその唇に口付けた。何度か吸い上げて、ゆるゆると腰を動かし始める。 「んん、んっ、け・・・や」 「栄一さんの中、いつもより熱い。気持ちい、ですか?」 上体を戻し、両足を高く持ち上げて繋がりを強くする。がくがくと頭を揺らして感じる様を、三角は陶酔するように眺めていた。 「っは、はぁ・・・渓夜・・・けい、もっと・・・」 「あ、なんか・・・俺も、イっちゃいそう。凄い、締め付けてくる・・・」 目を閉じて呻く男を、栄一は霞む視界の中で見た。それは本当に気持ちよさそうな顔をしていて、なんだか悪くない気分だ。 「んぁっあ、あ・・・も、ひぅ・・・っ!」 先の部分が栄一の弱いところを擦り上げ、熱いものをぶつけてきた。それが三角の放った精液だと知る前に、頭の中が白く染まっていく。 「けい・・・渓夜・・・!」 どくどくと注がれるのに合わせて、栄一の性器も小刻みに跳ねた。 強い快感に子供のような泣き声を上げ、意識が白く塗りつぶされていくのを感じる。何か言いたいのに、フレーズが定まらない。 そうして何度も三角の名前を呼びながら、栄一は急に訪れた睡魔によって一気に眠りの中へと滑り落ちた。その後は、何も覚えていない。 <12月25日 AM11:02 三角宅> 酷い頭痛に眉を寄せて、栄一は机の上で魂を吐き出したような顔をして突っ伏していた。その横に、三角が雑炊を持って腰掛ける。恨みがましく見てみるも、するりとかわされるのでもう諦めた。頭だけ起こし、冷ましてもらった雑炊を口に入れてもらう。 「・・・もう一口」 「はいはい」 「・・・水」 「はいはい」 「・・・返事は一度」 「はい」 にこにこ顔の三角は、栄一が何を言おうと文句一つ零さない。昨夜のことを、少しは反省しているのだろうか。 そう思ったが、途中からは栄一の方が誘ってしまったのだ。厳密に考えると、責められない。 ううんと唸る栄一を見ながら、三角はこっそりと微笑んだ。本当は、まだ秘密にしていることがあったのだ。 「栄先輩、美味しいですか?」 「あ? あぁ」 あれは、まだ胸の中にしまっておくことにしよう。あんなに可愛い栄一は、珍しいから。 「何笑ってんだ、お前?」 「いえ、別に」 やはり、また上手いこと言いくるめて酒を飲ませよう。 頭痛に悩む栄一とは裏腹に、三角は次に酔わせたとき何をさせようかという煩悩で、頭が一杯になっていた。 Merry Xmas!! 終。 12.27 AM01:40up 眠。26は母親が休みで家にいたため更新できませんでした。すいません。 今日は一度寝て、夕方にでかけるまでになんとか一つは上げたいなー |