クリスマス特別編おまけ.『選択:浅月と一緒に夏威に謝る』 <12月24日 PM00:03 研究室内> そろりと開けた扉の先に、夏威の姿はなかった。 入るなり拳か重い資料の制裁を覚悟していた浅月は少しだけ安堵したが、しかしいないということは謝ることもできない。肩を落として中に入り、後ろ手に扉を閉めた。 何度も入り浸ってはいるが、浅月の研究室はここではない。入りたいと言ったのだが、実質上ここの主である夏威の猛反対を受けた。変な理由で自分の研究外の場所に来るな、と怒られもした。 勿論、夏威の言い分は正論だ。しかし、少しくらい自分の願いも汲んでくれればいいのに。 愚痴を言いそうになるが、夏威の怒った顔を思い出して溜め息を吐いた。あの人は、ただ素直でないだけだ。人一倍恥ずかしがり屋なのだと分かれば、そこまで辛くもない。 それにしても今日は酷かった。クリスマスツリーのイベントについては、結構前から知っていた。夏威はああ見えて弟の春樹と似た部分があり、ああいう奇麗なものは好きなはずなのに。やはりまだ、男同士だということに抵抗があるのだろう。たまに一緒に出かけるときも、必要以上に近寄っては来ない。加えて、夏威はここ最近どころかずっと忙しい人間なので、会う回数だって減っているというのに。 「まあ仕方ないかな・・・元はノンケだったわけだし」 まだ少ししっとりと湿りを帯びる前髪を指先で弄り、部屋の奥に進んだ。研究中は自分の健康管理すらおろそかになる夏威の机周りは、魔窟かというほど汚い。それを軽く片付けていきながら、浅月は突き当たりにあるソファまで進んだ。浅月の研究室にあるような大きくて柔らかなものではない、本当にちょっとの休憩にしか用いられない、簡素なソファ。 その上に、新しそうなタオルがあることに気が付いた。 「・・・先輩」 思わず笑みが零れた。あの人なりの、謝罪といったところだろうか。 集めていた資料や実験器具を傍に下ろし、浅月はそのタオルを頭に乗せた。食堂で会った親切な高校生のおかげで半分は乾いているが、流石にいつまでも生乾きのままでは風邪をひく。ソファに座って、背もたれに体重をかけた。 夏威はどこに行ってしまったのだろうか。少し面倒な実験があるからと言って呼び出されたのに、着くなり早めの昼食に付き合わされた。部屋の様子では、何かの途中で抜けたようにも思えない。 あれ、と思って体を起こす。 今までも手伝いに駆り出されることはよくあったが、そういうときは大体が本当に切羽詰まった状況ではなかっただろうか。のんびり昼食など摂ろうものなら、怒られた。というより、実験が終わって倒れる夏威を運び出すのに研究員に泣きつかれたこともあった。実験を控えた夏威が昼食に誘うなんて、今までの行動から見るとおかしすぎる。 タオルを口に当て、浅月は目を瞬かせた。震える手で携帯を探り、ボタンを押していく。短い電子音のあと、忘れようもない着信音が、隣りの部屋から聞こえてきた。 それはすぐに消え、がたごとと何かを倒すような音が響く。さっきまで無人だと思っていた資料室に、いきなり人の気配を強く感じる。 「夏威先輩?」 扉を開けると、年がら年中カーテンのかけられている薄暗い部屋の奥から、緊張の空気が伝わってきた。くすりと笑って、足を踏み入れる。 「先輩? ごめんなさい、鈍くて」 本棚を一つ通り過ぎる。続いて、もう一つ。年代や出版国別に並べられた膨大な資料たちは、夏威の一存で集められたものばかりだ。この部屋は、夏威でできている。 「今日、実験なんてないのでしょう? 先輩なりに、考えてくれてたんですね」 カタン、怯えるような音がした。一番奥の本棚の横から、白い布が見える。 「どこ行きますか? ツリーが駄目なら、先輩が一番行きたいとこに行きましょう。図書館でも、美術館でも・・・火星にだって、お供しますよ」 「・・・馬鹿、言ってんじゃねぇよ」 ひょこりと本棚から覗き込むと、真っ赤な顔を俯かせた夏威がそこにいた。悔しそうな表情でちらりと浅月を見て、唇を咬む。 「やろうと思ってた実験に、材料が足りなかっただけだ。ただ、それだけなんだからな」 「・・・はい」 「・・・信じてねぇだろ」 「まさか」 一応否定はしてみたが、緩みきったアホ面で言っても説得力はないだろう。しかし、近づけた顔を押しやるようなことを、夏威はしなかった。 「ん、先輩・・・もう少し、足開いて」 本棚に向けて立たせ、浅月はその白い太股に口付けをした。ひくりと肌が震え、膝が曲がりそうになる。 「倒れないでね。床、冷たいですから」 「・・・ったら、ここですんなってのに! いつも誰が掃除してると・・・」 「僕ですね」 「・・・」 実験が佳境に入ると、そう簡単には体を許してくれなくなる。その場合は大体浅月が暴走し、この資料室で致すことになる。隣りには研究員がいることもあり、事後、夏威は毎度のように浅月を殴り倒していた。恐らく、今日もそれは例外ではないかもしれない。 白衣はそのままに、下半身だけすっかり裸にすると、浅月は肌理細やかな太股の感触を唇で十分に堪能してから、慎ましく閉じている秘部に口付けた。全身の至るところが敏感な夏威には、そこへの攻撃が一番効く。唾液を乗せた舌でほじると、すぐに体を蕩けさせた。 「はぁ・・・ぁっん、あ・・・」 白衣の袂から尻だけを突き出している姿がなんともいやらしい。左右の尻肉をぐねぐねと揉みながら、浅月は舌での攻めを止めなかった。そうしているうちに、足の付け根にあるものが、その主張を始めてくる。 「先輩、いいの? 床汚してるけど・・・」 「う、るせ・・・」 指摘すると、ごそりと手を動かしてそれを握り締めた。先端を包むようにして、先走りをそこで受け止めようとしている。 「手汚れちゃいますよ」 からかっても、夏威は手を離さなかった。それどころか少しずつ動かしており、焦れているのがよく分かる。 「一度出しておきますか? ご無沙汰だったから、辛いんでしょう?」 問いかけに、夏威は首を振った。ちらりと恨みがましい目を背後に向け、浅月を煽る。 夏威は男に犯されることが好きではない。と、浅月に向かってよく罵倒しているが、それは明らかに嘘だ。太いもので広げられ、奥に熱いものを感じながら果てるのが大層好きなのだと、浅月は気付いていた。 「まだちゃんと広がってないんですけど・・・いいんですか?」 「・・・お前が、したいんだろ・・・っ勝手に、すりゃいい・・・」 決して自分から求めようとはしない。浅月がやりたいと言うからしてやっているんだという姿勢を、いつまでも崩そうとしない。 誇り高い、とでも言うのか。その気高さを汚しているのかと思うと、いつもいけない喜びに胸が震えた。 「そうですね・・・もう、我慢できないんです。入れてもいいですか?」 伺いを立てると、夏威は仕方ないように頷いた。その意地の張りようが、もう愛しくて堪らない。腰を両手で掴んで、狙いを定めた。 「息吐いて、先輩・・・」 本棚に置いた手に、夏威が顔を埋める。ぐっと先端で狭い肉を押し広げると、白衣を咬んで打ち震えた。 「くうぅ・・・っ」 「・・・咬んじゃ駄目って、言ってるのに・・・」 眉を寄せて、浅月はじっくりと体を進めていった。ごりごりと何かを亀頭のくびれで叩くような心地がして、反らされた背中に汗が浮く。そして小さく痙攣したかと思うと、奥の方が絞るようにきゅっと締め付けられた。その反応だけで、軽くイったのだと分かる。 「気持ちいい、先輩? でもちょっと力抜いて。進ま、ない」 ぎちぎちと力一杯締めてくるものだから、流石に痛かった。眉を寄せて懇願すると、夏威は細く息を吐いてそうしようと努力する。締めるのもいいが、緩めた状態でキープすると、体の奥のほうからじわじわと快感の波が押し寄せてくる。 「はぁ・・・ああぁ、あ、あさづ・・・きっ」 「そう、そのまま。締めちゃ駄目ですよ。最高によくしてあげますから」 背中に体を重ねるようにして、浅月はゆるゆると腰を使い始めた。蕩けた肉が擦られる感触に、夏威の口から甘い声がひっきりなしに漏れてくる。はくはくと空気を求めるように動く唇が細かく震え、膝が笑い出す。 「っやぁ、も、無理・・・浅月、早く・・・っ」 イカせて欲しい、とは決して言わない。それでも、我慢が効かずに締め付けてくるのは、もっと強い刺激を求めるからだ。にこりと笑って、その反応に舌なめずりする。 「ツリー見物・・・」 「・・・あ?」 「行かなくて、よかった。世界一奇麗なものは、ここにありますから」 「お前、何言って・・・ん! んんぅ! やめ・・・っ」 挿し貫いたまま結合部をなぞると、全身をびくびくとさせて夏威が喘いだ。伸びきった皺をいじられると、何もかも零しそうなほど感じてしまうのだ。 「浅月・・・! あさ、駄目だ・・・っは、はあぁぁ・・・っ!」 夏威の手が性器に伸びた。飛び散る精液を、本にかけないためだ。 「やぁ・・・あ、ああぁん・・・」 俯いてしまっているので見えないが、相当やらしい顔をしているのだろう。浅月はそれを想像し、勿体ない姿勢だったなと思いながら、奥をメチャクチャに突き上げる。壊れたように、夏威が甘く色づいた悲鳴を上げる。 それを聞いて、同時に強く締め付けられたことで浅月も奥深くに精液を大量に迸らせた。思いの丈をぶつけるように、何度も、何度も。 その熱を感じながら、夏威の性器もまた大きく跳ねた。手の平で受け切れなかったものが、次々と床に白い斑点を作っていく。強い快感に、涙を流しながら。 「・・・先輩、なんかまだ出そう・・・出しても、い?」 まだ柔らかいそれで掻き回しながら訊くと、夏威は振り向かないまま頷いた。その耳が真っ赤になっていることを確認して、頬を上げる。 「大好きだよ、先輩」 最高のクリスマスプレゼントだ。 後頭部に顔を寄せ、浅月は目を閉じて長々と射精した。 「え? 先輩、今なんて・・・?」 余りのことにもう一度口にして欲しかったのだが、夏威は目を逸らして上着を羽織ってしまった。 「聞こえなかったなら、いい」 「嘘嘘! ちゃんと聞こえてました! 是非行かせてください!」 ああ、やっぱりクリスマスイヴは奇跡の日なんだ! と叫ぶ浅月を横目で見て、夏威は恥ずかしさに歯咬みした。たかが家に泊まることを許可したくらいで、何をそんなに浮かれることがあるのか。 そう言うと、浅月はぐるりと顔を向けて目を大きく見開いた。 「だって先輩! 今まで何度頼んでも入れてくれなかったじゃないですか! きーちゃんが仁成くんのとこ泊まっても、僕んち来るばっかりで・・・」 「勘違いすんなよな。ハルがいないうちに年末の掃除でもしようかと思ったんだ」 「はい! ちゃんと、お手伝いしますね!」 満面の笑みで返され、夏威は胸が締め付けられた。なんだってこいつは、俺に対してこんなに従順なのか。今のも嘘だと知っていながら、決して言及しようとはしない。そういうところが、たまにもの凄く嬉しくなる。 「・・・少し、遠回りして帰るか」 「え?」 「ツリー。見たいんだろ?」 「えぇ?」 「何アホ面してんだ。早く行くぞ」 言ってから、顔が熱くなるのを感じた。早足に浅月の横を通り抜け、扉に手をかける。と、その体を後ろから抱きすくめられた。 「・・・何してんだ。行かないのか?」 「・・・行く。でも、出ちゃったらもうくっつけないから」 殊勝な声でそんなことを言うものだから、夏威は呆れるような溜め息を吐いて首を後ろに向けた。すぐ重ねられる唇に、口内で愛の言葉を囁く。伝わらないだろうが、それでもいい。面と向かってなど、きっと一生言えないから。 「・・・行くぞ」 「はい!」 無邪気に笑って返事をするのを見ながら、夏威は部屋の机に置いてきたものに思いを馳せた。家に呼ぶまでは成功したが、今度はどうやってあれを切り出そうか。ベッド脇にこっそりと置いておこうか。 ふと、弟のためにクリスマスの夜中にごそごそと起き上がる自分を思い出した。 今も昔も、自分の行動は変わっていないのだな。自重の笑みを漏らして、夏威は研究室を後にした。 Merry Xmas!! 終。 12.25 PM04:15up うひー。あと何個書けばいいんだー |