クリスマス特別編おまけ.『選択:タクシーを捕まえる』 <12月25日 AM00:09 『木葉』前> こきり、と十倉が首を鳴らすのを後ろから見ながら、高木は逃げたい心と必死で戦っていた。 逃げたところで、向かう場所は高木の家なので意味はない。だがしかし、今日は逃げたい気持ちで一杯だった。 タクシーを止めるために手を挙げたまま、十倉が振り向いた。どきりとして体を硬くするのを見て、可愛らしく口角を上げる。店に入るときよりも若干重みの増えた鞄をついと掲げ、いたずらっぽく喉を鳴らす。 「そんなに、これが気になりますか?」 的確に図星を射され、高木はスーツの心臓部分を握った。こくりと頷くのを、十倉の手が頬に触れる。 「大丈夫ですよ、切れたりなんてしませんから。ちゃんとローションも貰ったでしょう?」 「そじゃ、なくて・・・」 十倉は、さっきまで店で歓談していた男から、とんでもないものを貰っていた。デザインも動きもえげつない、太めのバイブだ。 「あんなの、入れたくな・・・」 「僕が、見たいんですよ。恭臣が入れたいか、入れたくないかじゃなく」 高木が泣きそうな顔になったところで、タクシーが停まった。その悲壮な表情に十倉は嬉しそうな顔をして、開いた扉に片手を置いて中へと誘う。震える膝をなんとか動かして、車内へと入る。そして隣りに乗り込む十倉を訴えるように見たが、意図的にだろう、こちらを見てはくれなかった。 唇を咬んで、俯く膝に涙が落ちる。それをこちらも見ないまま親指で拭ってくるのが、憎らしいのにその何十倍も嬉しかった。 <12月25日 AM01:16 高木家> シャワーを浴びている最中にも嫌がってぐすぐすと鼻を鳴らしていたら、微妙に不機嫌になった十倉に手首を拘束されてしまった。髪もまだ殆ど濡れている状態でベッドに転がされ、怯えたように十倉を見る。 「や、やめないか・・・? それ以外のことなら、なんでもしてやるから」 「それ以外のことって、恭臣がいつもそう言うから、僕は満足できてますよ。とにかく今日は、これを入れてる恭臣が見たいんです」 「どうしてもか?」 「はい、どうしても」 後ろ手に縛られた格好では、妙な女座りをすることでしか抵抗ができない。それも膝を掴んだ手にあっさり開かされ、何もかもを十倉に晒すことになる。 「なんだ、もう半分くらい勃ってるじゃないですか。何が嫌なんですか?」 「何が、って・・・」 十倉が鞄から出したものに目をやり、高木はすぐに逸らした。小指の先ほどのいぼがたくさんついた、まるで怪しげな店にしか置いていないような異物。くれた男は風俗店のオーナーだなどと言っていたので、どこぞの専門店から手に入れたのだろうか。それにしても、形がおぞましすぎる。 しかも、それはまるで意志を持った毛虫のように動くのだ。ぐねぐねと試しに動かしているのを見て、本当に肝が冷えた。それを十倉が貰ったときは、叫びそうになった。 今までにもペンや小瓶でオナニーをさせられたことはあったが、本格的なものを、それもこんな太いのを入れたことなどない。裂けてしまうのではないかという恐怖と、それを十倉が望んでいるという状況。板ばさみな心境に、高木はゆるゆると首を振ることしかできなかった。 「本当に、嫌だ・・・なあ、頼むから・・・」 「じゃあ、ちょっとだけ。入れてみて危ないと思ったら、すぐ抜きますから」 お願い、と丸い目に訴えられて、高木は喉を上下させた。これは狡い。高木が、一番深いところでは十倉の頼みを断れないと知っていて。 唇を咬んだが、結局は頷いていた。十倉の顔が喜びに輝き、頭を抱いてキスされた。ちゅっと涙袋を吸われれば、甘い疼きに胸が痛む。 「もう少し突き出して。・・・うん、よく見える」 にぱりと笑いながら言われ、高木は耳まで熱くなるのを感じた。思わず逸らしそうになる視線を、慌てて十倉に戻す。 「そう、ちゃんと僕を見ていてくださいね・・・声も、殺したりしちゃ駄目ですからね」 分かっているというように頷くと、満足そうにして貰ってきたというローションを手に出した。零れるのも無視して手の平で充分に温め、秘部に当てる。ぬるりとした感触に、反射で足が閉じそうになる。 「あっん、とく・・・ら」 「大湖、ですよ」 指摘されて、高木は口を閉じた。まだ名前を呼ぶのに慣れないことを、こうして時々窘められる。 遅すぎるほど丁寧なマッサージを受けて柔らかくなったところに、更にローションを足して十倉が指を突き入れた。最初から広げようとする動きに、高木の眉が寄る。十倉の太いものに慣れたそこはそれくらいの圧には耐えられるが、やはりあのバイブは恐かった。 「ほら、恭臣も協力してください。もっと力を抜かないと、うまくほぐせませんよ」 「っう、うく・・・」 ぼろぼろと涙が零れるのは、生理的な要因からだ。それを長い舌でべろりと舐め上げて、目元に吸い付くようなキスをする。 「そんなに硬くならないで。僕のと、そんなに変わりませんよ」 くちくちと三本の指を左右に小刻みに動かしながら言うのを、高木はぼやける視界で見た。そして、さっきの拒絶なんかよりも強い力で、首を振った。 「変わらないわけ、ないだろ・・・っ」 「え?」 突然の強い語調に目を丸くした十倉を、高木は珍しくきつい視線で射抜いた。その間もぼろぼろと涙が零れ、頬を伝っては胸に落ちていく。 「お、俺だって昔は色々入れてみたことあったけど・・・っと、十倉の、大湖に変わるようなものなんて、あるわけないじゃないか・・・!」 ダムが決壊したかの如くの泣き方に、十倉は少しだけ反省したような顔をして頭を掻いた。抱き寄せて、落ち着かせるために背中や頭を撫でる。逃げるどころか肩口に額を押し当てて泣く様子に安堵してから、後ろ手の拘束を解いた。すぐに背中に回される腕に、もう一度胸を撫で下ろした。 「ごめん恭臣。悲しませたいわけじゃ、なかったんだよ・・・?」 「わっ分か、てる・・・お前、が、俺のこと良く、したいんだろなってこと、ぐら・・・」 しゃくり上げながらの声に、十倉はうっすらと笑った。横に転がっているものを思い、眉を下げる。 これなら、きっと高木は今までにないくらい乱れてくれただろう。同時に、涙も凄かったはずだ。そうやって快感やら羞恥やらで泣き喚く高木の姿に十倉は一番興奮するのだが、流石に今回はやりすぎたようである。残念だなぁなんて思いつつ、前髪を掻き揚げてキスをする。 「んっ、ん・・・だい、ご・・・」 「乗って、恭臣。恭臣が僕の上でいやらしく動いてるとこ、見たい」 「え、でもこれ・・・」 「それはまた今度。恭臣が可愛いこと言ったから、もう我慢できなくなっちゃいました」 ぐいと押し付けると、高木は真っ赤になって下を向いた。その視線の先で確認し、喉を鳴らしてから十倉の肩に手をかける。軽く押すだけで倒れる体に跨り、足を開いて押し当てた。 「たくさん塗ったから、やらしいことになってますね。赤い肉がひくひく動いて、物欲しそうだ」 「っや、そんなこと・・・」 「言われたほうが興奮する?」 先手を打たれ、高木は茹蛸もびっくりするほど赤く染まった。中途半端に腰を浮かせたまま、固まってしまっている。 「早く、恭臣。寒いです」 またそうやって嘘をつく。触れるだけで拍動も分かるほど熱いこれが、寒いと思っている証拠なわけがない。 それでも、高木は従順に頷いてそれに腰を下ろした。ずぬっと一番太い部分までを一気に飲み込み、深い呼吸をする。 「恭臣、辛くないですか?」 問いかけに、高木は頷きながら腰を進めた。色づいた吐息が細く長く吐かれ、十倉の上に汗がぽとりと落ちる。 「・・・気持ちいいですか?」 これには、少し間を空けてから二度頷いた。手を後ろに置き、体を反らしながら残りを一息に飲み込んでいく。熱い肉に挟まれる刺激に、十倉の指先がぴくりと動いた。 「っは、はあっ、あ・・・あぁ・・・」 両足の間で可憐に震える性器を、十倉の手が捕らえた。じっくりとチューブを潰すように力を込めていくと、びくびくと全身を揺らして高木が呻く。すっかり握り込んでしまうと、そのまま二度三度下から突き上げる。 「あっ、やだ・・・大湖、手・・・離し・・・」 「駄目です。恭臣がイっちゃうと、その刺激で僕も出しちゃうから。もっと長く、恭臣の中にいたい」 「出してからずっと、中にいても・・・っいから・・・!」 魅力的な提案だったが、今のは高木の我慢する顔が見たいがための方便なので無視をした。握ったまま腰を動かし、高木の甘い声にうっとりする。 「ほら、動いてくださいよ。このまま僕のことイカせることができたら、ご褒美に恭臣もイカせてあげる」 そう言って一切の動きを止めると、高木は一瞬躊躇ってから腰を動かし始めた。上下に動かすというよりは、繋がっているところを支点に前後左右に肉を擦り付けている。 堰き止められていることも快感を増徴させるのか、暫くすると喘ぎ声がすすり泣く声に変わった。それも次第に甘い響きを包容しだし、それだけで十倉の性感を高めていく。自らの手を、反らせた胸に持っていき赤く張ったものを擦り始めた。 「あんっあんっ、大湖・・・だい、ごぉ・・・っ」 「自分で乳首弄っちゃって。そんなにイキたいですか?」 「い、イキたい・・・っ白いの、出した・・・っぁ」 十倉のが中で一際大きくなるのを感じ、高木は無意識にぎゅっと締め付けていた。十倉の口から苦しそうな声が漏れ、高木のものを握る手に力が込められる。 「ひぁっあっあっあ! あぁー! っや、いた・・・熱い、大湖・・・っ!」 「・・・っも、やらしいな・・・ん、まだ出る・・・っ」 下からぶつけるように結合を強くすると、これでもかというほどの量を注ぎ込んだ。その熱さに高木が嬌声を上げ、握ったものも手の中で血管が浮くほど脈打った。それでも、射精は許さないというように強く握り込む。やがて先端から押さえきれなかったものがとろりと一滴だけ垂れ、同時に十倉の射精も止まる。 ぜ、ぜ、と荒い呼吸を繰り返す高木の太股を労うように撫でてやりながら、十倉はうっとりとその赤く染まった体を見上げていた。 「可愛い、恭臣。ちゃんとイキたい?」 声もなくかくかく頷く体を倒し、十倉はその体を折り曲げた。しかし性器の拘束はそのままで、高木が不思議そうな顔をしてこちらを見る。 「もう少し、我慢できますよね? あともう一回分我慢したら、きっと天国に行けますよ」 にっこり笑う十倉を怯えるように見て、高木は首を振った。これ以上解放されないまま絶頂だけを味合わされるなんて、拷問に等しい。 「や、やだ・・・そんなことされたら、死んじゃっあ、ぁあああ!」 懇願も無視して腰を振り始めると、高木は泣きながら十倉の背中に腕を回してきた。嫌だと言っていても、高木が十倉の手を振り解こうとすることはまずない。 そのことに気分をよくしながら、ぐりぐりと中の肉を突き動かした。喘ぎ声の中に自分を呼ぶ声が混じることに、閉じた口端を上げる。 「好きですよ、恭臣・・・」 色々なプレイがあることを知ったが、ひとまず今はこのままでいいか。高木の目が自分を写し、その声が自分を呼ぶ限り。 ああでも、と十倉は汗を浮かばせながら揺れるしなやかな肢体を見下ろした。 あれだけは、一度やってみたいような気がする。白い肌に赤い斑点は、きっとよく映えて奇麗だろう。それ専用のものは市販のものとは違って融点も低いというし、恐らく生命に別状は与えないだろうし。それに何より、あれは高木の中に他の何かを入れないで済む。 自分の言葉で、十倉がその制約内でどれだけのことができるかなんて考えていることを全く知らない高木は、十倉のくれる快感を必死になって追おうとしていた。ともすれば爪さえも立ててしまいそうなほど強く抱き寄せる背中が、今日も愛しい。 好き、大好きといつものように繰り返す途中で、一言だけ違うものを潜り込ませた。どうやら十倉も気が付いたようで、にっこりと笑って目元に口付けてくれた。 「メリークリスマス、恭臣」 ようやくそれらしいことを言えた。 そんなことを思いながら、高木は散々堰き止められていたものを一気に吐き出す快感に、全身を震わせて悦んだ。 Merry Xmas!! 終。 12.29 PM04:45up よ、漸く全部できた!! アトガキはブログにて! |