『拍手オマケ:柔らかい檻』 最近結婚しました。 と言っても間柄は養子縁組だから、法的には「お父さん」ってことになる。でも、結婚は結婚なんです。だって、あんなに格好いい人が、僕の声で起きてくれるんだから。 「き、稔さん、起きてください、稔さん」 あ、危ない危ない。僕も同じ「木坂」になったのに、そっちで呼ぶと怒られる。でも今のは寝惚けてるだろうし、バレてないよね。 「・・・甘い」 「っんん!」 当然目を開けた木坂さんに頭を掴まれて、そのまま唇に押し付けられた。寝起きでいつもより熱い舌に歯をこじ開けられて、にゅるにゅると口内を犯される。腰がきゅっとして、僕は半分泣きながら抵抗した。 「ん! っふ、稔、さん! 今日は仕事でしょう?」 いつもならこのまま負けてしまうところだが、幸いなことに木坂さんは今寝起きだ。まだ力を上手く働かせないのか、割と簡単に引き剥がせた。 「・・・なんだよ。冷たいな」 う、その顔反則です。格好いいくせに、甘えさしてってオーラが、たくさん出てくる。 「だ、だめですよ。僕が長峰さんに怒られるじゃないですか・・・」 長峰さんは木坂さんの上司だ。こう言うと怒られるけど、じゃあ何と訊くと木坂さんも答えられなくなるから、やっぱり上司なんだと思う。二人はよく喧嘩してるけど、結局のところ長峰さんのことは信頼しているみたい。お兄さん、みたいなものなのかな。 僕がそんなこと考えている間も、木坂さんは睨むようにして僕を見ていた。だから、だめですってば。そんな顔されても、僕は絶対・・・ 「キス、だけですからね」 「やりぃ」 うう、絆されてる。でも、だって、やっぱり格好いいんだもん。それに、木坂さんは僕の恩人だし。お願いされたら、聞くしかないよ。 ぽんってされて、僕は毛布で隠れた木坂さんの太股に乗った。髪を掻き分けて、一回ちゅってする。離れて、もう一回。次は少し舌を出して唇を舐めると、木坂さんが咬み付くみたいにそれを吸ってくれる。あとはもう僕にはできることがなくて、好き勝手されるのに任すだけだ。 「ぅん、ん・・・っは、んん・・・」 気持ちいい。唇も、舌も。触れられている背中や腰もとろとろって溶けていきそうで、僕は木坂さんのパジャマを掴んだ。 「んっんっん、も、もう終わり! おしまい!」 「えぇー」 「えーじゃなくて! ご飯、冷めちゃいますよ!」 温かくても冷めてても僕のご飯はあんまり美味しくないんだけど。僕は逃げるようにベッドから降りて、扉を開けた。 「ちゃんと顔洗ってきてくださいね!」 ああ、また怒ってしまった。本当は僕だってもっとイチャイチャしたいのに。 世の中の新婚さんは、みんなこんななんだろうか。朝からキスして、時々セックスして、ご飯中にも時々して、っていうか家にいるときは大抵セックスばかりしているような。 僕は昨夜のことを思い出して、顔が熱くなるのを感じた。ばっと顔を押さえ、誰もいるはずがないのに左右を見渡した。よかった、誰もいない。 僕は朝ご飯の準備をするためキッチンに走った。 最近結婚した。 と言っても間柄は養子縁組だから、法的には「息子」になる。それでも、結婚は結婚だ。だって、あんなに可愛いのが毎朝俺のためにご飯作ってくれる訳だし。 「おはようございます、きさ・・・あ、稔、さん」 もう二週間は経つというのに、こいつはまだ俺のことを名前で呼ぶのに慣れていない。普段ならこのままベッドに連れ込んでお仕置きコースまっしぐらなんだけど、生憎今日は仕事が入っていた。流石に出勤前に一発ヤってきたのがバレたら、長峰さんにどやされる。 「おはよう大輝。今日のメニューは?」 「今日はパンケーキです。割と上手くできたと思うんだけど・・・」 なんだ、これはパンケーキだったのか。なんで皿の上に鍋敷きがあるんだと思っていた。 大輝は壊滅的に料理の才能がない。同じ材料で、物体Xとまではいかなくても必ず何かしら失敗をする。この間なんて、俺が下ごしらえまで全部してやったにも関わらず訳の分からないものに仕上げた。 まあそんなところもこいつの可愛いところな訳で、俺は席に付いて大輝を呼んだ。開いた膝の間にちょこんと座る姿は、なんていうかもう、ああ、メロメロだ。 「んっん、稔さん、そんな抱き付かれたら、食べさせてあげられない・・・」 「あ、悪ぃ」 いやいやいや。こんな可愛いつむじが目の前にあったら、ひとまず抱き付くしかないだろうっていうかヤリたいヤリたいこのまま長峰さんに電話入れてキャンセルしちまうかな。 「はい」 俺の煩悩だらけの思考は小さく切られたパンケーキに遮られ、その黒くて固そうな物体を口に入れる。 なんだこりゃ。不味い以前に咬み切れない。んでもって予想通り苦い訳だが、それに加えなんだか軽い酸味が含まれているような。 含みながら首を傾げていたら、大輝が目を輝かせて俺を見た。 「分かります? トマトジュース入ってるんだ」 雑誌に載ってたの、とはしゃぐのはいいが、ちゃんと分量通りにやったのか。やっては、いるんだろうな。 可哀そうかとは思ったが、俺は大輝の手からフォークとナイフを奪って一切れ口に入れてやった。可愛い顔が一瞬で青くなり、散々苦しんでからなんとか飲み込んだ。 「うぅ・・・不味い・・・」 「ははは、今日のも失敗だな」 「き、稔さんのが上手いのに、なんで僕に作らせるんですかあ」 「そりゃ、お前が頑張ってるところは犯罪的に可愛いからな」 額にちゅってしたら、大輝は真っ赤になって体を離した。でも俺の上に乗っているのは変わらないから、逃げ場なんてある筈もない。 「ほら、続きちょうだい。まだ残ってるだろ?」 「も、捨てる・・・っ」 「だめ。マータイさんに怒られるぞ」 「誰ですかそれはぁ〜」 勿体無いって言葉を広めた凄い人だ。まあそれは口実で。本当はお前が俺に不味いものを食べさせてるって罪悪感で涙目になっていくのが見たいだけなんだけど。 「ほらほら、もう出勤時間だぜ」 「い、意地悪・・・!」 意地悪ですとも。 「なあなあ、まだ? 時間は待ってくれないんだぜ?」 「あ、あとちょっとです! ここを、こう通して・・・できた!」 「ん、サンキュ。じゃあ行ってくるわ」 いってきますのちゅうをして、木坂さんは玄関を開けた。その帽子、似合ってます。でも、ネクタイを僕にやらせるのはもうやめてください。 人のネクタイを締めるのって、なんで難しいんだろう。自分のはできるのに、方向が変わっただけで凄く難し・・・って、僕もこんなのんびりしてる暇なかったんだ。 急いでキッチンに戻り、朝食の後片付けをして洗面所に向かった。ちょうど洗濯機は止まっていて、タオルやシーツなんかを乾燥機に投げ入れる。いくつかは部屋干しだから、腕にかけてそこを出た。 料理以外なら僕にだって普通並みにできる。洗濯して、掃除機をかけて、お風呂も洗って。なんか主婦みたいだけど、違うから。僕にだって、そろそろ生徒って肩書きが付くんだから。 先週漸く前まで通っていた高校を中退して、定時制高校に入学する手続きを始めた。少し遅かったから難しかったんだけど、ちょっと離れたところにまだ受け入れてくれるところがあった。 僕がそこに通い始めたら、基本の生活が夜になっちゃうからって木坂さんは最初反対していた。でも僕だって大学に行きたいし、そしてゆくゆくはちゃんと働きたい。木坂さんは一生現役って叫んでるけど、AV男優にそれは難しいと思う。ていうか、僕が嫌だ。その仕事が嫌なんじゃなくて、そんな年の人が出てるAVなんて、誰も買わないと思うから。 一通り家事をこなしていたら、いつの間にか時間が迫っていた。今日は、アルバイトの面接があるんだ。 会う時間が減るって言ってたけど、僕にしてみれば普段の生活で既に木坂さんと過ごす時間は少ない。木坂さんの撮影は大体昼間だから、その間僕は一人で家にいなくちゃならないんだ。 この間までは保護者の印鑑が貰えなくてできなかったけど、今ならアルバイトができる。いっぱい働いて、できれば学費も自分で払いたいんだよね。甘えてばっかりじゃ、よくない大人になっちゃいそうだから。 木坂さんのコレクションが詰まっているクローゼットを開けて、僕はワイシャツとそれほど制服っぽく見えないスラックスを探した。この家には僕の服があまりないから、こうやって探すしか方法がないんだよね。一度家に帰らなくちゃとは思うけど、もし何もかもなくなっていたら嫌だし。 僕は両親を捨てたってことになるんだろうか。でも、そういう意味なら先に捨てられていたのは僕の方だ。大きい家があったって、一緒にいなければそんなのないも同然なのに。 一緒に暮らすっていうのは、今みたいなことを言うんだと思う。同じものを食べて、時々喧嘩して、それでもなんだか幸せっていう。 考えていたら思わず泣きそうになって、僕は瞼をごしごしと擦った。 もう忘れなきゃ。僕の家族は、木坂さんなんだし。木坂さんが僕を拾ってくれたから、こうして喧嘩することも幸せなんだって分かったんだし。 クローゼットを閉めて、僕は服を着替えた。 今頃あいつはアルバイトの面接を受けているんだろうか。なんか、ムカつく。 俺が嫌なのは一緒にいる時間が減るとか、別に金の心配はするなとか、そういう低次元の話じゃなくて、大輝がそのアルバイト先で誰かに襲われやしないかって、ただその一点だけなんだよ。 苛々しながら腰を動かしていたら、いつの間にか女はイっていた。やべ、また収録中に別のこと考えてたよ。 「うぃ、お疲れー・・・って、お前もうこの仕事辞めちまえ!」 案の定固く絞った濡れタオルを胸の中心に投げつけられて、俺は一瞬息が止まった。 「な、長峰さん・・・いいじゃねぇか、ちゃんとイカせてんだし」 「そういう問題じゃねぇだろ! 最近はほんとやる気ねぇ顔でセックスしやがって! そんなことするぐらいなら、お前んちのコレクション全部よこせ!」 「っな! それは、だめだ!」 今俺のコレクションは大輝のしかないんだから。って、こいつ知ってやがるな。俺と大輝が入籍もとい養子縁組したのは知ってる訳だし、それに俺が大輝にメロメロなのは奇しくもこの人に見抜かれたんだった。あの幼稚だった自分を思い出し、頬が引きつる。 「ま、まあクレームが来てる訳じゃないだろ? 俺のビデオ、売れ行きいいもんなあ」 「・・・そりゃ、撮る人の腕がいいからな」 「あっそ」 この人はいつもこれだ。一度くらい被写体の俺がいいからとか言ったらどうなんだ。ぎりぎりと歯を鳴らしていたら、長峰さんはにやりと笑いやがった。 「じゃあコレクションはいいから、お前んちで一週間ドキュメント撮らせろよ。『人気AV男優、恋人との蜜月!』ってな」 「馬鹿言ってんじゃねぇよ。んなことしたら、撮ってるスタッフ全員大輝の痴態見て射精するっての」 「・・・馬鹿はお前だよ」 何言ってんだ。俺はマジだぜ。 ていうか俺もヤバいんだよなあ。焦らしまくって大輝が顔もちんこもケツもどろどろにして、もうイカせてくれって言ったときなんか、その表情だけで発射しちまいそうになるっつうか。とにかくあいつはエロ過ぎ。俺の教育の賜物と言っちゃあそうなるんだけど、だから心配なんだってのに、なんであいつはそれが分からないんだ。 大体昨日だってコンビニのアルバイトだってのを隠してたことに対してのお仕置きだったのに、あいつがエロい顔でお願いしてくるから、ついいいよって言っちまった。コンビニなんて、ヤバい輩の巣窟じゃねぇか。あんな可愛い顔で「○○円です」なんて言われたら、どんなに枯れた親父だって「君はいくらなの?」って訊いてくるに決まってるじゃねぇか。 全く、なんであいつはそんなに働きたがるのかねぇ。大学だって俺が行かせてやれんのに。いや、本当は行かないで俺の帰りだけ待ってくれるのが一番の理想なんだけどな。 また思い出して歯軋りしていたら、長峰さんが勘違いしたのか慌てて前言を撤回してきた。ドキュメントってのは嘘だったらしい。 「まあ、もう一度大輝くんに出演してもらいたいってのは本気なんだけど・・・」 「絶対駄目」 あいつは俺の。 「あれ、海堂じゃん」 その声に、僕は背筋が凍り付いた。 電車に乗るからもしかしたらとは思っていたけど、本当に元クラスメイトに遭ってしまうなんて。恐る恐る見た顔は宮元くんじゃなくて、それに僕を虐めていた人たちでもなかったから、僕はほっとして笑顔を作った。確か、クラス委員をやっていた・・・門司くん。 「お前何してんの? いきなり来なくなって、気付いたら辞めてたからびっくりしたべ」 「い、色々あって」 毎日のようにクラスメイトに犯されてました、なんて言える訳ない。曖昧な答えしか言えずにいると、門司くんは僕の隣に腰掛けた。 「そういやさ、宮元。覚えてる?」 「え? あ、うん、覚えてる」 というか今でも時々夢に見る。あの歪んだ、鉄板を掻くような笑い声。 「あいつもさ、お前が来なくなって暫くして辞めちゃったんだよ。だから、お前より早かったんじゃないかな」 「辞めた?」 なんで。こうやって僕に普通に話しかけてくるってことは、あの時期のことがバレた訳でもないだろう。意味が、分からない。 僕の表情には疑問が隠しきれていなかったのだろう。門司くんは苦笑して、俺の推測なんだけどな、と続けた。 「あいつ、お前のこと好きだったんじゃないのかなって。お前が来なくなって、つまんなくなったんだと俺は思ってる」 「ええ?」 「はは、だから推測だって。でもあいつ一年のときからお前に突っかかってたじゃん? なんつうか、あれって好きな子を虐めたい心理だったんじゃねえかなってさ」 引いてやるなよ、と最後に付け足した。 引くも何も、正直言って信じられない。散々人のことを嬲っておいて、それが好きだったからなんて。信じることなんて、到底できない。 僕が黙ったのをどう取ったのか、でもさ、とまた話を切り出した。 「俺、海堂は学校を辞めてよかったんじゃないのかなって思ってる。辞める直前の頃なんて、なんか疲れきってたもんな。俺が話しかけたのだって、気付いてないだろ」 僕は首を傾げた。あの頃、僕に話しかけるのは宮元とその仲間くらいだったはずなのに。 「海堂のことはずっと気にしてたんだぜ。でも宮元が変な独占欲で俺らに牽制しまくっててさ。辞めたって聞いたとき、すげー後悔した」 「門司くん・・・」 「でも会えてよかったよ。顔色も普通だし、何より初めて喋れたしな」 門司くんが笑ったとき、ちょうど電車が駅に着いた。お、と言って門司くんは電車を降り、僕に手を振った。 「それじゃあな。元気でやれよ」 「あ、」 僕も何か返そうとしたのに、電車のドアは空気を吐いて閉じてしまった。自分の鈍さに呆れるが、もう遅い。ガラス越しに手を振って、椅子に深く座り直した。 宮元くんが、僕を。 あの時にそれを知っていたら、何か変わったんだろうか。ガラスに頭を付けて、流れる景色を無感動に見る。 早く帰りたいな。早く帰って、木坂さんとセックスしたい。 飲もう飲もうと新橋がうるさいから、仕方なく一軒だけという条件付けして待ち合わせた。駅近くにある、小さな居酒屋だ。 「乾杯!」 「・・・乾杯」 「なんだよ、ノリ悪いなあ。大輝くんと喧嘩でもした?」 「誰がするか! むしろ俺は早く帰ってあいつに突っ込みたいんだよ!」 「あはは、声がデカいよ声が」 誰がデカくさせてるんだ。ムカムカしながらビールを飲み、こうなったら奢らせてやると高いつまみを頼んだ。 「ていうか新婚生活は順風満帆なんだ? 羨ましいね、この、この」 「絡むな。つうか俺がいない間にうち来るのやめろ。殺すぞ」 「いいじゃん、大輝くん一人じゃ寂しいだろうし」 「そういうお前が俺を引き止めるのか?」 「あははっ」 あははじゃねぇよ、あははじゃ。つうか大輝も簡単に人を信用しすぎ。なんか色々あって忘れてたけど、こいつ大輝のこと貰うとかなんとか言ったことなかったか? 用心させなきゃな。 「大輝くん料理上手くなった? 時々教えてあげてるんだけど」 「勝手なことすんな。あいつは下手なのが可愛いんだから」 「・・・相当キてるね」 「はぁ?」 ったく、こいつは俺を怒らせるために存在してるんじゃないかと時々疑いたくなる。だとしたらいらないからさっさと消えてくれ。俺を怒らせるのも喜ばせるのも、一人いりゃ充分なんでな。 「ていうか、稔が教えてあげればいいじゃない。稔無駄になんでもできるんだし」 「俺が料理するのはベッドの上でだけ」 「・・・はいはい」 ちなみに食材は大輝限定だ。まずは柔らかい唇から色を付け、次に胸にあるさくらんぼを成長させてやる。この頃になると可愛いソーセージが勝手に濡れだすんだけど、これの調理はひとまず後にして、メインディッシュの下ごしらえに入る。 ソースは俺のだったりあいつの体液だったり。最近のお気に入りは蜂蜜の匂いがするローションだ。超とろとろで、あいつも結構気に入っている。 その後はあいつに手伝わせて俺のナイフに硬度を持たせてもらい、後はじっくり寝かせながら入刀だ。このときの喘ぎ声が、またいいトッピングなんだよなあ。 「・・・おい」 んでもってすっかり固くなったさくらんぼに刺さるピアスをいじってやったりすれば、もうメロメロになってて美味しいったらねぇんだよ。 「おいって」 ああ、考えてたら喰いたくなってきた。俺の最高食材。 「おいって、聞けよ稔!」 「あ? 何か言ったか? 俺帰るから、勘定よろしくな」 「は? おい待てよふざけんなって待て稔!」 今日はどう調理してやろうかな。初めから挿してやってもいいかもなあ。 「稔! っこの、後で大輝くん喰っちゃうからな!」 それは無理だ。俺って食べ残しはしない主義だし。 帰ったらまだ木坂さんはいなくて、留守電に新橋さんと飲んで帰るってメッセージが入ってた。僕は仕方なく木坂さんのコレクションを開け、最近撮ったビデオを引っ張り出す。 レコーダーにセットして、スラックスの前を開ける。全部脱いで性器を取り出したのと同時、テレビに僕と木坂さんの姿が映った。 『はい、じゃあ今日も俺のこと木坂って呼んだお仕置きに、大輝くんにはオナニーしてもらいましょうか』 目を閉じて、僕は性器を摘む。 『ほらほら、皮ばっか引っ張ってないで、ちゃんとしごいて。・・・先端、濡れてきたよ』 「ん、ん・・・」 『割れ目を爪で引っ掻いてみ。ん、それで玉も握り込むんだ』 「あ、あぁ!」 ビデオの声に合わせ、中の僕とほぼ同時に声を上げる。ビデオの方が少しばかり遅れるのは、中の僕は見られている恥ずかしさで一瞬躊躇するからだ。 『玉をぎゅってしながら、竿を倒すんだ。・・・痛いか? 痛いだけじゃないだろ?』 「あっや、やぁ、気持ち、ぃ・・・っ」 言われた通り竿を倒すと、ビィンって快感が引き伸ばされて、ちんこの中で逆流するみたいに熱が溜まる。その状態で玉をこりこりって転がすと、もう頭の中は真っ白になる。 『もうケツまでぬるぬるだな。指入れてみ』 「はぁん! あ! 指なんかじゃ、足りないっ」 『俺のが欲しいって? だめだめ、これはお仕置きなんだから』 そう言って、ビデオの中の木坂さんは俺の足を大きく開かせた。ちらりと見ると、開いた間に自分で指を入れている自分の姿がそこにあって、かぁっと全身が熱くなる。 『もうちんこ触るなよ。指増やして・・・そう、出し入れするんだ』 『あんっあんっあん、木坂さ・・・』 『また言った。もう、今日は入れてやんない』 『そん、な、酷い・・・っ』 『じゃあおねだりしてみな。教えてやっただろ?』 『・・・っ』 ビデオの中の僕が押し黙る。僕はそれを見ながら、あの時はすぐに言えなかった言葉を頭の中に浮かべながら指を動かす。 ああ、やっぱりだめだ。木坂さんの指じゃないし、木坂さんのおっきいのじゃないから、僕の一番いいところは擦れない。くちゅくちゅと卑猥な音をスピーカーとすぐ傍から同時に聞く。 『きさ、稔、の・・・』 ビデオの僕が漸く決心した。僕も太股の内側がぴくぴくってしてるから、もう限界。 『稔の、』 「太くて熱い、おちんぽで」 『僕のエッチで欲張りな』 「下のお口に、蓋をしてください・・・」 「喜んで」 「・・・え?」 今のは、ビデオの声じゃない。驚いて閉じようとした足を、声の主ががつりと掴んだ。 「何エロいことしてんの。もしかして、俺がいない間によくやってたの?」 「あ、あぅ・・・」 「今、望み通りにしてやんよ」 帰ったら家中暗くて、なんだよもう寝ちまったのかよと思って居間に行ったら、俺の奥さんが一人で濃いオナニーしてた。 このまま最後まで見ててやろうかと思ったけど、可愛い声でおねだりしてくるからつい答えちまった。そんなんで、今俺の下では大輝が全身を震わせて喘いでる。 「あっやっいや、みの、稔・・・っ」 あー可愛い。可愛い可愛い俺の奥さん。今までにもあんな可愛いオナニーを一人でさせてたのかと思うと、可哀そうだけど同時にかなり愛しい。愛しくて堪らねぇんだよこのやろう。 がつがつと突いてやると背中にしがみ付く手がこれまた可愛い。今日の服は滑りやすいから何度も掴み直そうとするのが、もう、可愛いなあ。 「稔、稔、ぎゅって、して・・・ちゅう、して・・・」 「はいはい。いくらでもしてやるから、安心しな」 「んん・・・っ」 大輝がこうやって甘えてくるのは、何か嫌なことや不安があるときだ。それも大抵、家のことか学校のこと。 知らなくてもいいと思っていたが、余りにもうなされるので結局全部聞き出してしまった。それで忘れるなんて都合のいいことはなかったが、大輝も少し楽になったようだ。 それにしても、やっぱり宮元は殺してやりたい。大輝の両親も、その浮気相手も、あと知らなかったクラスメイトも、全員。 話に聞く限り、宮元って奴は大輝のことが好きだったんじゃねぇかと思う。好きだからどうだって訳じゃないけど、まあ気の毒ではあるな。下手したら、俺も似たようなことをしていた訳だし。 それでも、今のこいつを抱いているのは俺だけだ。新橋にも、長峰さんにも渡さない。そして勿論、過去の幻影なんかには絶対渡さねぇ。思い出して指齧るのは、宮元一人で充分だ。 「み・・・みの、るっ、もう、もうイっちゃう、出ちゃ、ぅ」 「ああ、いっぱい出せ。出して、忘れちまいな」 大輝の精液は、一緒に暮らすようになって一ヶ月後に、漸く出るようになった。栄養不良もそうだが、ストレスも大きかったんだろう。出たとき、何かから解放されたみたいに大泣きしていた。嬉しくて、俺は全部飲んだ。 大輝は可愛い。こんなに可愛いのに、今までろくに可愛がられてこなかったんだ。 馬鹿な親どもめ。宮元も、それ以外の周りにいた奴らもみんな馬鹿だ。可愛がってやれば、こいつはこんなに輝くのに。 「大輝・・・大輝、好きだぜ。可愛い、愛してる」 「っひ、う、僕も・・・僕も、稔のこと、大好き・・・」 ああ、可愛い。ぎゅってしてぐりぐりして、もう他の誰も見つけられない場所に監禁しちまいたい。 でもそんなことしたらこいつは悲しむからな。手の届く範囲で、自由にさせてやるよ。 「大輝・・・」 マジ、なんでこんなに可愛いんだろう。絶対、魔女か悪魔に魔法かけられてるって。そうじゃなかったら、なんか変な薬飲んだとか。魔女だか悪魔だか知らないけど、ありがとう。こいつは俺が一生かけて可愛がります。 いつの間にかビデオが終わっていて、大輝も二回目の射精を迎えていた。イったばかりで気持ちよく締め付けてくる肉を擦ってやると、またも可愛く鳴いた。 もうずっと、お前は俺のものだ。 「は? 元クラスメイトに会った?」 「うん、そう。そんで、宮元くんが僕のこと好きだった、なんて言うの。嘘だよね?」 木坂はそれを本当のことだと思っていたが、言わずに少年の頭を抱き込んだ。 そんなこと知らないままでいいから、さっさと忘れて欲しい。 それにしてもただの元クラスメイトが、クラス委員だったからといってわざわざ話しかけてくるだろうか。ずっと気にしていたと言っていたが、まさかそいつも大輝のことを。 木坂があらぬ疑いをかけて門司に呪いをかけている間、少年は木坂の裸の胸に顔を当ててまどろんでいた。 こうしてくっついていると、不思議と心がほかほかになる。好きだな、大好きだな、という気持ちが溢れて、胸が洪水を起こしそう。 「稔、大好き」 「俺も。大輝が大好きだぜ」 甘い言葉を囁き合い、それ以上に甘いキスを交わした。こうして腕の中にいれば、大輝ももう恐い夢なんて見ない。 この腕は、大輝をここに縛る檻だ。 でもその檻は、外に逃がさないのと同時に、大輝を護るものでもあった。 終。 080926up(拍手再録) |