2.

 胸にまで飛んだ精液と、果てたことにより甘く疲弊した顔。
 くにゃりと力をなくした性器の次は、白いものを溢れさせながらいやらしく収縮を続ける秘孔まで。また顔にカメラが近付いたとき、汗の浮いた額を撫でられた。
「よかった? ヒロキくん」
 木坂に尋ねられ、弱々しく頷く。暫くしてから、カメラを下げる気配がした。
「いやあ、今日は力入ったな。木坂もお疲れ」
 差し出されたタオルを受け取り、木坂はとっととシャワーに向かった。残された少年に近付いて、長峰が濡れタオルで全身を軽く拭いた。
「ありがとうね、君のおかげでいいものが撮れたよ」
 機材を片付けている二人も何か言っていたが、少年は聞いているのかいないのか曖昧に頷くだけだった。
 礼を言われるようなことをしたのかよく分からない。木坂はともかく自分は横になってただ喘いでいただけだ。遠い世界の話を聞いているような気分でうとうとと眠りかけた顔に、ぽたぽたと水滴が当たった。目を開けると、シャワーを浴び終えた木坂が顔を覗き込んでいる。
「おい、寝るな。早くシャワー浴びてこい」
 言うなり少年の腹に新しいバスタオルを乗せ、抱え上げる。広い浴室に下ろされ、閉め際に指を差された。
「中、ちゃんと掻き出さねえと下痢になんぞ」
 一人にされ、それに従った。敏感になった皮膚に沁みるので温めにした湯で洗い流し、ついでに頭から爪先まで奇麗にして外に出た。もう片付けはすっかり終わっていて、出ると長峰が寄ってきた。
「これ、今日のギャラね。売りに出したら、もう少しあげられるかもしれないけど。あと、家まで送るよ」
「だめだめ長峰さん。そいつは俺が連れて帰るんだから」
 一人掛けのソファでのんびりしていた木坂が跳ねるように立ち、少年の肩に後ろから手を置いた。長峰が目を丸くし、木坂を止める。
「珍しく残ってると思ったら、なんのマネだ?」
「何って、ナニしようと思ってんだけど?」
「おま・・・っ、その子は素人なんだぞ?」
「だってさあ」
「んっ」
 少年の後ろに回って屈むと、木坂はその白い耳を下からぞろりと舐めた。そして甘咬みしながらしつこく愛撫し、膝が折れた少年の腕を掴んで支えた。
 若いスタッフ二人がその表情に思わず唾を飲んだ。たった一度の行為で、少年の体は木坂のいいように作り変えられている。
「俺、こいつの躯気に入ったし。一回じゃ勿体ない」
 言いながら少年を立たせ、もう連れて行く気満々である。何を言っても無駄だと思ったのか、長峰は肩を上下させて溜め息を吐き、少年の方を見た。
「嫌ならそう言ったほうがいいぞ」
 少年の身を案じての言葉だったが、結局何も答えずに木坂に連れていかれた。
 扉が閉まってから、スタッフの一人が長峰に耳打ちする。
「逸材でしたね。またお願いしたくなりますね」
「・・・壊れてなきゃな」
「え?」
 スタッフが聞き返した言葉の続きを、長峰は咬み潰した。


「今日は歩きたい気分だったから電車なんだ。悪いな」
 さっきずるずると引っ張られた道のりを逆に戻りながら、そんなことを言われた。
 薄いサングラスをかけた木坂はやはり格好いいらしく、もう何人もの女性が振り向いたり立ち止まったりしている。それらの視線などもう慣れっこなのか、木坂は歩く速度を全く変えず、少年は半ば走るようにしてついていった。
 ほんの一時間前、足に根が生えるのではというくらい張り付いていた横断歩道が近付き、そして離れていく。
 世界が壊れたかもしれないという錯覚は、ある意味で正解だったのかもしれない。死にたいと思っていた事実さえ、もう他人のことのようだ。
 ただセックスの相手としてしか見ていないようだが、必要とされているのだから。
 木坂の前で、少年は無視されると怯える必要はない。話しかけても相手にされない恐怖は、経験しないと分からない。
「てゆーかお前んちって厳しい? 外泊とかってできる?」
 改札口の前で切符を買ってからそんなことを言い、木坂は振り向いた。恐らくどちらを答えても連れていかれるのだろうが、少年は大丈夫ですと頷いた。
 そういえば両親の顔も暫く見ていない。仕事と浮気で忙しいのだろう。
 頷いたあと黙った少年に特に木坂は突っ込むでもなく切符を渡すと、自分はICカードを使って先に改札を抜けた。それに慌ててついていき、ホームで電車を待つ。
 都心から少しだけ離れて、歩いて着いた先は一等地のマンションだった。一人で住むには無駄に広い、金がありますと叫んでうるさいような部屋。
 通されたベッドルームもやはり広く、目立つのは足側の壁にかかるホームシアター。ぽかんと見ていると、後ろから襟を引かれた。
「ぼんやりしてないで脱ぎな。何しに来たか、分かってんだろ」
 そう言うとカーテンを閉め、照明を点けた。壁と天井の隙間から入るスタイルで、部屋全体が白く浮かぶ。
 のろのろと服を脱ぐ少年に焦れたのか、木坂は近寄ると素早く剥いていった。何も纏わなくなった少年をベッドに投げ、クローゼットを開けて何かを手に戻ってくる。
「手首細ぇな。栄養足りてんのか?」
 その手首に黒塗りの手錠をかけ、ギリギリまで絞る。それをただ黙って見つめる少年の額を手の平で押し、目を覗き込む。
「少しも抵抗しないんだな。俺はやりいいけど、損だろその性格」
 言いながら拘束を進め、輪にした長いロープを手錠の間に通した。それを壁にあるフックにかけ、きりきりと上げていく。
 腕が高く伸び、腰が浮く寸前で止める。その足を引き、不自然な体勢で開かせた。
「口開けな」
 従うと、何かカプセルのようなものを割り、何に入っていたとろりとした液体を舌に乗せられた。カプセルはそのままゴミ箱に捨て、指についたものを少年の胸になすり付ける。
「合法なもんだから安心しな。効いてくるまでは少しかかるけどな」
 ベッドを軋ませて降りると、少年を放置して三脚を立て始めた。その上に家庭用のそれよりも高性能そうなカメラを乗せ、録画を開始する。そこにコードを繋げると、大きなシアターに少年の姿が映し出された。その映り具合に頷いて、木坂は少年を見た。
「どうよ? ・・・ってそれどころじゃねえか」
 頬が朱に染まり、浅い息を繰り返している。全身の熱さに、声を震わせて喘いだ。
「いい感じだな。それじゃあ遊んでやるよ」
 クローゼットに行き、また何かを持ってきた。少年の位置からは見えないが、恐らく色々な道具が収納されているのだろう。細いコードの付いたピンクローターを見せつけるように揺らす。
「見たことくらいあるだろ? 可愛く鳴いてくれよな」
 紐一本で吊るされる少年の後ろに回り、顔にローターを当てた。ぶるぶると動き出すそれに、少年の眉が動く。
 くすぐったい。産毛が揺れて、表面だけに振動が走る。逃げようと顔を動かすと、木坂の手が顎を掴んでモニターに向けさせた。少し視線の外れた自分の姿に、どきりとする。
「分かるか? さっきのお前、こんな顔してたんだぜ。あと数週間もしたら、色んな人に見られるんだ」
 首筋をローターでなぞり、浮いた鎖骨にも這わせる。骨に響く衝撃に腰の辺りがもどかしい。目を閉じれば開かされ、自分の痴態に頭が壊れそうだ。
 少年の気分が昂ぶっているのを見て、木坂はローターを胸の中心に移動させた。さっきなすり付けた薬の影響で赤く腫れたそこは、少年の予想以上に敏感になっていた。
「んぁ! あ! やあ!」
 首を振って逃げようとするが、手は拘束されている上に後ろから抱えられているので動けない。熱に浮かされた顔は少しだけ怯えの色を見せ、シーツの上を足が頼りなく滑った。
「感じ過ぎて恐いか? 今にこれしか考えられなくなるさ」
 木坂の足が前に回され、太股の内側を押さえ広げられた。パキンと音がして、見るとさっきのカプセルを取り出していた。凝視する少年の前でその内容物は性器に垂らされ、その結果を予想して躯が震える。その間もローターを当てられ続けた乳首はもうぱんぱんで、痛いほどだった。
 胸ばかり弄られて数分。薬が浸透したのか涙を流して屹立する性器を、木坂が弾いた。
 激しすぎる快感に少量の精液を飛ばし、少年が高く声を上げる。
「はあ・・・はあ・・・は、はんっ」
「ちんこ、擦ってほしい?」
 再び顔の産毛を震わせながら訊かれ、少年はかくかくと頷いた。全身の血がぐるぐる巡り、興奮が冷めやらない。
「どうしよっかなー」
 そう言って唇を割られてふくまされたローターに、反射的に舌を這わす。振動のこそばゆさが腰に伝わり、ぞくぞくした。
 唾液でぬるぬるになったローターを手に、それが下へ降りていく。しかしそれは希望に反し、先走りで充分すぎるほど湿っている秘孔に当てられた。
「ひやっや、やだぁ・・・」
 敏感なそこを震わされ、びくびくと性器が揺れる。しかしすっかり緩んだ状態での抵抗は無に等しく、長い指で奥まで挿入れられてしまった。狭い肉の間で小さく震え、少年を追い上げていく。
「あん、あっん、んん!」
「ヒロキ。・・・ヒロキ、これ見てみ」
 ぼやける視界に入ったのはピンポン玉ほどのボールが数珠状に繋がったもので、それがどう使われるものか訊かなくとも分かり、背筋が震えた。自分の後ろでにやにやしている木坂の顔をモニターで見て、首を振る。
「も・・・いやぁ」
「小さいから大丈夫だって。イったら、そこで抜いてやるからさ」
 一つ一つはそうでも、そんなにたくさん挿入れられたら。
 ぞくりと睫毛を震わす少年を尻目に、木坂は一つ目を赤くなった肉に当て、押し込んだ。
「んんぅ!」
「ほら、痛くねぇだろ? 次いくぜ」
「あ! やぁ!」
 二つ目を挿入れられて気付いた。いくら数を増やされても、こんなにゆっくりでは圧が大きくなるだけでイクことなんか叶わない。奥で震えるローターの刺激も躯を熱くするだけで、決定的なものは与えてくれなかった。全部挿入れる気なのかと、恐怖に涙が出た。
「どうした? 痛いのか?」
 質問に、首を振る。それでも涙の止まらない少年に木坂は溜め息を吐き、手錠にかけたロープを抜いた。がくん、と支えを失った躯が木坂の胸に埋まる。
「・・・あのな、言わなきゃ分かんねえから。俺は快感で泣いた顔は好きだが、そういう青白いのは嫌いなんだよ」
 後ろから顎を掴んで上を向かせると、その頬に伝う涙を乱暴に擦った。
「言いな。怒りゃしねぇから」
 カチカチと音がして、中の振動が止まった。
 口調の変化に顔を見ると、木坂は苛立つ風を装っていたが、気遣われているようにも感じられる。
「ヒロキ?」
「こ、恐いだけ・・・そんなに挿入れられたら、切れちゃう・・・」
「ばーか」
 木坂はそんなことかとつまらなそうに言い、中指と親指で胸の中心をこりこりと潰した。ん、と少年が甘い声を出し、丸まった背に舌を這わせる。
「何年俺がAV男優やってると思ってんだ。んなヘマしねぇよ」
 ちゅうちゅうと何ヶ所か強く吸い、そして首に咬み付いた。
「ぁ・・・」
 赤く付いた歯型を今一度舐めて、カメラ越しに少年の目を見る。
「痛いことはしねぇから。力抜いて、気持ちくなることだけ考えてな」
 モニターを見て、少年はその中の木坂に頷いた。その頭をわしわしと撫でてから、入っていた玉を更に奥へと押し込んだ。そして三つ目を、手の平全体で押し入れる。
「ん! んふ・・・っ」
 苦しい。腹の中がぱんぱんになっている気がする。それを分かっているのか、木坂は腹を揉むように押してきた。中でコロリと玉が動き、妙な感覚に少年が身を固くした。
 結局五つ入れたところで木坂は追加を埋めるのを止め、残りと一緒に覗いているコードの先についている目盛りを動かした。再び動き出したローターに、腰骨がきゅんとする。
「ああ、あっ木坂、さん」
「どこがいいか言ってみ?」
「お尻・・・っお尻がぶるぶるって、気持ち・・・ぃ」
「さっきまで恐がってたくせに」
 呆れたように、しかし楽しそうな声で言い、耳を咬む。少年が高く短い声を上げ、性器を震わせる。
「これ、抜いたらどうなると思う?」
 ボールの先に伸びた糸に繋がる輪っかを弄び、少年に訊く。分からなくて首を振ると、大きく開かせた足の間をつついた。
「玉の下、少し膨らんでるだろ。この下に、前立腺がある」
 それも分からなくて黙ると、男のGスポットだよ、とやらしく笑った。
「ちんこで擦られて気持ちよかったとこあったろ? そこだよ」
 そこまで言われ、少年は顔を赤くした。どうなるのか、分かってしまった。
 その表情に木坂はにんまりと笑い、紐をまっすぐに伸ばした。肉を盛り上がらせる玉の感触に、少年が慌てて力を込める。
「そうそう、出したくなかったら強く締めとけよ・・・っとぉ!」
 少年が尻に力を入れたのを確認した瞬間、木坂は一気にコードを引いた。締めた所為で狭まった肉をぼこぼこと玉が殴り、目の前が白くなる。
「あっやっあっあっあ!」
 玉がえぐるたびに性器の先に痛いほどの熱が集まる。これが前立腺なんだと理解する前に、少年は達していた。胸に届くほど精液を飛ばし、がくがくと頭を揺らして。
「ああっ、あ、ああぁ・・・」
 遅れてずるずるとローターが抜かれ、少年は体を震わせた。少し開き気味になった肛門が蠢き、中で泡立った腸液を吐き出す。
「・・・まだ、イケるだろ?」
 木坂は小さく笑って、抜いたばかりでてらてら光る玉を再び入れ始めた。
「もうローターはないからな。さっきより多く入れてやるよ」
 射精の甘い余韻に震える体をさすりつつ、次々と玉を埋め込んでいく。抵抗する力など、少年の躯にはもう残っていなかった。
「っふ、んんぅ・・・」
「・・・ほら、もう六こ入った。あと一ついってみるか?」
 その調子で長いこと遊ばれて、木坂自身が挿入ってきたとき少年の体はまるでゼリーのように溶け崩れていた。
 木坂の言っていた通り、もう他のことなど考える余裕もない。





続。