3.

「苦しいなら、ちゃんとおねだりしてくださいよ」
 大学の第三講義棟。去年建てたばかりのこの新しい建物は、毎日業者が清掃にくるのでいつでもピカピカだった。トイレの床もツルリと清潔で、物を置くのもさして抵抗はない。座るとなると、流石に一瞬ためらうのだが。
 その床に、本宮栄一はぺたりと座り込んでいた。それも、下半身は丸出しで、その尻たぶの下からはピンク色のコードが覗いている。その先がどうなっているのかは体に埋まっているため判別がつかないが、全身の震えを見れば大体想像がつく。
 コードの先はリモコンのようになっており、それを持つのは栄一の二つ下の後輩、三角渓夜だ。彼は自分の太ももに顎を乗せ苦しそうに眉根を寄せる栄一を見下ろしながら、リモコンのレバーをきちきちと操作する。栄一はその親指の動きだけに翻弄されているのか、時々甘い吐息を漏らしたり開けた口からとろりと涎を溢れさす。目は既に焦点を失っており、床についた手は縋るようにぎゅっと握られていた。
「さ、触らせて・・・」
 もじもじと膝を擦り合わせれば、足の付け根がぬるりと滑った。床にもそれは垂れているようで、さっきから汗とは違う湿気にやきもきする。
「お願い」
「どうしようかなあ」
 ねだれと言っておいて、この男は。
 睨みそうになるのを必死で抑え、栄一は顎を乗せた膝に頬ずりした。
「イキたい、なんでも・・・するから」
「なんでも?」
「ひっ」
 身を乗り出して尻を撫でた三角は、コードをつんと引っ張った。中で引っかかるのか、栄一はその感覚に声を上げる。どうやら、バイブレーター機能付きの電動プラグらしい。穴を広げるそれは、根元こそ細いがそれ以降は膨らんで敏感な部分を押し上げながらぶるぶると刺激する。何十分にも思える時間をこの状態で放置されていた栄一は、もう息も絶え絶えだ。ジーンズ越しに太ももの肉を甘咬みし、上目に三角を見る。
「イカせて・・・」
「いい顔、するようになりましたね」
 言いながら、三角は栄一に見せ付けるようにしてバイブの強弱を操るレバーを一気に目盛り一杯まで上げた。
「ああああぁっ!」
 中からだけでなく視覚からも犯されて、栄一はがくがくと腰を揺らしてよがる。目がちかちかするほどの快感なのに、栄一はまだその熱を解放できない。長々と、絶頂に似た痛みが先端に溜まるだけだ。
「いっあ、ああ、三角ぃ・・・!」
「栄先輩が口でしてくれたら、イカせてあげる」
 振動が止まり、栄一はすぐにその言葉を理解する。そして見上げれば、楽しそうな三角と目が合った。
「栄先輩って、本当にやらしいんですよ? だから、ほら」
 ジ、と下げられたファスナーの間から、怒張した三角のものが現れる。
 初めて見るそれは自分のより少し大きく感じられて、何故か唾を飲んだ。知らず、興奮している。
「この間してあげたでしょう? あんな風に舐めて、ふくんで、飲んで」
 目の前のそれと三角を交互に見て、逡巡する。
「抵抗あるなら、舐めるだけでもいいですけど」
 不意に後頭部を撫でられ、その優しい手つきに少し動揺する。
「先輩?」
 ごくりともう一度喉を鳴らし、栄一は快感を堰き止められ続けて震える唇を、その熱い肉に押し当てた。

 午後九時すぎ、体育館ではバレーとバスケのボールがまだ反響している。講義が七時過ぎまで食い込む大学では、自然練習時間帯が遅くなりがちだ。
「本宮」
 ミニゲームの途中、シュートを決めた湯村がコートの端で俯く栄一のところまでやってきた。顔を上げれば、眉を顰められる。
「顔色悪いな。どっか悪いのか?」
「あ、いや・・・」
 健康そのものだ。ただ、体の奥に問題があるだけで。
「全然参加しないから怒りに来たんだけどな。それじゃ仕方ないか」
 ぽんと頭に手を置かれ、気遣われたことにすまなさを感じる。コートの上で、栄一は自分の存在を呪った。
「大丈夫、次は出るよ」
「そうか?」
「うん、へい、きっ」
 立ち上がり掛けた栄一の膝が折れ、間一髪のところで湯村がその体を支えた。お礼もそこそこに離れれば、いよいよ心配顔で顔を寄せられた。
「本当に大丈夫か? フラフラじゃんか」
「や、大丈夫だって。もたついただけ」
 正直なところ近付いてほしくないとは言えなかった。今の瞬間で動きだしたモーター音が、絶対に聞こえないという確証はないのだから。
 ぱっと離れてコートの中を見れば、湯村が抜けた所為で四対五となったにも関わらず優勢を保つよう動いていた三角と目が合った。三角も栄一に気付き、にこりとしてポケットに手を入れる。それを契機に、中の振動も治まった。
「とにかく大丈夫だから」
 一体どこから手に入れてきたのか、栄一の体内には三角が戯れに入れた遠隔操作機能のバイブが埋まっている。といってもかなり小さく細いので、時々奥に滑り込んだり落ちそうになるので気が気じゃない。自分で抜くことは許されていないから、ゲーム中に三角がスイッチを入れないでくれることを祈るまでだ。

 七分間のゲームが、栄一には拷問のように感じられた。
 三角は決してスイッチは入れなかった。しかし、その可能性を案じれば案じるほど中の存在感は増し、注意力が散漫になる。何より試合開始と同時に注がれた三角の意味深な視線が気になって仕方ない。強いパスが飛んでこなかったことだけが、本当に救いだった。
「うー・・・もう嫌だ」
 まるでフルゲームしたときのように疲れた表情で帰ってきた栄一の前に、白いタオルが差し出された。顔を上げれば、可愛い笑顔を返される。マネージャーの柚木美里だった。
「お疲れ様。はい、これ」
 タオルと一緒に美里が掲げたのは体温計で、何か言う前に口に投げ込まれた。落とせないから黙って咥えていると、くすくすと笑われる。
「やっぱり口からタイプの方が入れやすくていいよね。みんな間接キスになっちゃうのが問題だけど」
 自分で言った冗談に苦笑いし、座って座ってと壁際に追いやられる。同時に、次のゲームが始まった。
「湯村くんがね、やっぱり具合悪そうだからって。確かに顔色面白いよ」
 ふわふわと笑うこの子は、バスケ部のアイドルである。特に熱がある訳ではないからといってこの好意を無下にすれば部員全員に睨まれるだろう。他にもマネージャーはいるのに美里を遣ったのは、湯村の計算なのか。
 大人しく体温計を揺らしながら試合をぼんやり見ていたら、横からの視線を感じ美里を見る。案の定こちらを見ていた美里は、奇麗に微笑んだ。
「本宮くんはほんとに細いよね。健康には気を付けなきゃ駄目だよ」
「それ、男に対する注意じゃないよ・・・」
「そうかな? みんな言ってるよ、本宮は白すぎだとかもっと肉つけたほうがいいだとか。なんか薄弱って感じ?」
 余計なお世話だ。
 コートに視線を戻すと、美里もそれに倣い部員に声援を送る。これで何人が本気を出すのだろうかと笑って見ていると、美里が小さく溜め息をついた。何事かと横目で見たら、真剣な眼差しで誰かを追っている。その目が輝いた瞬間にコートを見れば、三角が零れ玉をリバウンドしたところだった。
「三角がどうかした?」
 ちょっとだけ湧いたいたずら心で訊いたら、分かりやすいくらい一瞬に顔が真っ赤になった。
 噴出しそうなのを堪えていると、美里は小声で話し出す。
「な、何を言って、ちょ、笑わないでよ!」
 敏腕マネージャーのうろたえた姿が面白くて、とうとう噴出したら肩をパチンと叩かれた。周りが何事かと見てきたので、美里は慌てて俯いた。ますますおかしい。
 暫くの間笑い続けて、栄一は真っ赤になって俯く美里に小声で伝える。
「三角に彼女はいないよ」
「ほんと?」
「あ、食いついた」
 からかえば、今度は観念したのか美里も微笑んだ。
「やだな、恥ずかしい」
「色んな奴が泣くよ、それ聞いたら」
「まさか。身内贔屓ってやつだよ、みんな」
 モテている自覚がないらしい。そんなことはないと言いたかったが、別にいいかと思い直して前を見る。あんな奴のどこがいいんだろうか。
「とにかく、みんなには内緒だからね。ほら、体温計出して」
 照れ隠しなのか、少し偉そうな口調にまた笑いが漏れた。
「うん、熱はないね。あと少しで終わるけど、どうする?」
「最後までいるよ。片付けくらい手伝うし」
 さっきの試合で無理に出ても周りに迷惑だと悟った。
「そう? でもほんとに顔赤い・・・」
 そう言って美里が身を乗り出したとき、視界の端に迫る丸い物体があった。
「危ない!」
 ボールだと意識するより先に手が反応した。破裂音に似た大きい音のあと、鋭く熱い痛み。そして残る手のひら全体の痺れに、ボールの勢いが物語られた。
「だ、大丈夫? 本宮くん!」
 一瞬の出来事に訪れていた静寂を破ったのは美里の声で、栄一は弱く頷いた。取らなければ、美里の顔にこのボールが。
 思って身震いしたところに、バッシュの床を擦る音が近付いた。
「怪我ないですか? すいません、すっぽ抜けちゃって」
「あ、いいよいいよ! 本宮くんが止めてくれたし・・・」
 真っ赤になって手を振る美里の前には、三角が立っている。その顔は笑っているように見えたが、目はひんやりと温度をなくしているようだった。ぞくりと悪寒がして目をそらした先でポケットに手を入れるのが見えた。かちかちと小さい音が聞こえたかと思うと、さっきまで静かだった物が再び暴れ出す。睨もうと視線を戻したが、他の部員にもみくちゃにされながらコートに引き戻されていた。たくさんの背中の間から栄一を振り向いた目が、細く弧を描いたように見えた。
 その後、片付けが終わるまで栄一は緩い振動にずっと翻弄され続けた。

 むず痒いような振動に耐えての片付けは散々なもので、何度か周りに迷惑をかけた結果湯村にコート脇へと追いやられてしまった。情けなさに萎縮する。
 このままでは病弱キャラになりかねない。悶々と床を睨むように見ていると、そこに影が落ちた。どうせ、と思って見上げれば、やはり三角のそれで。小さく舌打ちして顔を背けたら、くすりと笑われた。
「帰りましょう、栄先輩」
 ムカつく。人の事を騙してハメておいて、なんでそんな笑いを向けられるんだ。
 腹立たしいから横には並ばず距離を置いて体育館の入り口に向かう。湯村たちもそこにいたが、二人が近付くのを見ると先に部室へと戻っていく。
「・・・おい」
 前を行く三角に声を掛ければ、わずかに歩調を緩める。
「練習中は、やめてくれ」
 今度はしっかり止まり、振り向いて笑う。自嘲のようなそれは栄一の顔に不信の色を落とした。
「それは俺も思いました。先輩が必要以上に目立つのも考え物ですし」
「なんだって?」
「キャプテンと美里さんですよ。あんまいい顔しないで下さいよ」
「いい顔って・・・」
 大きく足を踏み出して顔を窺うと、珍しくムスっとしているようだった。
「柚木さんは、お前が・・・」
「俺がなんですか? 今はあんたの話をしてるんですよ」
「何、怒って」
 言うより先にすたすたと歩かれてしまい、栄一は少し走るようにそのあとを追いかけた。怒っている。けど、原因が分からないので何も言えない。
 なんとも不安な気分に苛まれながら、ひたすらその背中を追った。

 自分で出せばいいじゃないですか。
 部員が一人帰り、二人帰り。湯村でさえも帰ってから経過すること約二十分、かなりの逡巡のあと決死の覚悟で頼んだ栄一に、三角は冷たく言い放った。
 部室に備え付けのシャワーで軽く汗を流した三角は髪をまだ濡らしたままで、シャツの前を開いて物憂げにパイプ椅子へ腰を落ち着かせている。着替えの間も栄一はせわしなくちらちらと視線を送っていたのに、それも全く介していないようだった。というか、故意にこちらを見ないようにしているようでもある。
 そんな状態では言い出しにくいと躊躇していたのに、そう言われては腹が立つ。ロッカーの中から取り出したタオルを丸めて投げれば、冷たい視線に咎められた。
「な、なんだよ」
 その威圧に一瞬負けるが、気分を害したのは栄一のほうである。強気に睨むと、またすいと視線はあらぬ方向を向いた。
「何、怒ってんだよ!」
 自棄になってロッカーを大きな音を立てながら閉めると、背後で三角が立つのが分かった。そしてゆっくり近付き、栄一の肩越しにロッカーに手を付く。ひくんと栄一が揺れると、その首筋に鼻先を押し付けた。
「・・・先輩が、その理由を分かってくれないから」
「え・・・ぅっ!」
 鋭い痛みが首に走り、咬まれたのだと気付いた。じくじくと痛むそこを抑えたくても、三角の顔があってそれもできない。なんだか無性に悔しい思いを食んでいると、不意にちゅうっとそこを吸われ膝が折れる。
 ロッカーと三角に挟まれる形で支えられ、突然のことにバカみたいに高鳴った鼓動を静めようと息を吐くと、その隙にとばかりに上を脱がされた。拒もうものなら頭を上から押さえ込まれ、そのまま床に伏すような体勢にされる。中途半端に脱がされた服は背中で両腕を一まとめにする役も兼ねていて、いよいよ身動きが取れなくなった。ひやりと嫌な汗が湧き、案の定三角は下も脱がしにかかる。
「や・・・! いやだ、やめ、」
「誰に、何を言ってるんですか、あんた」
 流石に抵抗を強くしたら酷く抑揚のない声でそう言われ、背筋に嫌な痺れが起こった。そうなるともう大人しくするしかなく、栄一は泣きそうな面持ちでされるがままに脱がされていく。下着まで取り払わられたときには、小さな嗚咽さえ漏らしていた。
「何泣いてんですか。・・・なんだ、部活中は嫌だとか言っておいて、ちゃんと感じてたみたいえすね。べとべとですよ」
 この淫乱、と付け加えられ、栄一は屈辱で顔が赤くなるのが分かった。床に頬を擦り付け、ぐすぐすと鼻を鳴らす。そうしていると、秘部に指が当てられた。散々振動による刺激を与えられたそこは赤く潤っており、三角にはいやに扇情的な光景であった。それを口に出すことは、なかったが。
「この奥、指先に当たるのが分かりますよ。先輩も分かるでしょう?」
 くすくすと笑いながらバイブの先端を爪の先で掻いている。それは微かな振動となり、栄一を中から煽った。
「出してみてくださいよ。見ててあげますから」
「で、できな・・・っ」
「やります、でしょう?」
「ひぁ!」
 ぐっと指を押し込まれ、バイブの圧し進む感覚に首を反らせた。何度かそれを繰り返され、その都度短い喘ぎを漏らす。
「気持ちよくなれなんて誰が言いました? 出せ、と言っているんです」
「む、無理・・・こんな細いの、出せる訳な・・・」
 背後で苛立たしげな舌打ちが聞こえたかと思うと、腕を拘束する服を掴み、乱暴に引き下げた。力任せに床に転がされ、次に何をされるのかと怯えて三角を仰げば、目を両手で覆い歯を食いしばっていた。違う、違うとうわ言のように呟くその姿は何故か痛々しく見えて、栄一は何かを言うこともできない。三角はそのままふらりと後ろに下がり、さっきまで座っていたパイプ椅子にまた腰を下ろした。そして栄一を見ようともせず手を振ると、帰っていいと言い出した。
「緩く縛ってますから、自分でも取れるでしょう。早く、帰って・・・」
「みす、」
「どうして俺の言うことを聞いてくれないんですか!」
 ぎっと栄一を睨むその目はまるで泣きそうな色を湛えていて、栄一は動くことができないでいた。突然変わった態度が理解できなくて、頭は混乱するばかりだ。
「なんで、いきなり・・・」
「いいから帰ってくださいよ。まじで傷つけられたいんですか」
 言っていることがおかしい。傷つけたいと言ったり、突き放してみたり。陵辱され虐げられているのは栄一のはずなのに、苦しんでいるのは三角のほうのようではないか。
 腕をぐるぐると動かして拘束を解き、近付けば三角は栄一の気配に気付いてはいるようだが動こうとしなかった。パイプ椅子の背もたれに乗せた腕に顔を埋め、栄一が帰るのをひたすら待っているようである。
「三角・・・」
 自分でもおかしいのは分かっていた。しかし、このままにもしておけない。どうすればいつものいやな笑みを浮かべてくれるだろうと思案した結果、栄一は三角の前に膝を付いた。そこで漸く三角も顔を上げたが、その表情は一気に驚愕のそれとなった。
「ちょ、せんぱ・・・」
 三角が驚くのも無理はない。今朝散々渋っていた行為を、栄一が自らしようとしているのだから。栄一は三角の前を開け、その柔らかい性器を下着から出して舌を当てたのだ。
「・・・やめてくださいよ。同情なんて、まっぴらだ」
 髪を掴んで離そうとする三角を無視し、先端を丁寧に舐めると少し芯を持ったそこを一気に口にふくんだ。肉の詰まった、独特の感触。今にも吐き出しそうになるのを堪えて奥まで飲み込むと、必死な顔でそれをしゃぶった。三角も、栄一すら今の状況がよく分からない。部室には二人分の浅い呼吸と水気のあるいやらしい音が響くばかりだ。
「も・・・先輩、離して」
 口の中でそれはみるみる大きくなり、苦しくはあったが栄一は離そうとしなかった。喉に当たる苦味に何度もえづき、口を開け放している所為で涎が竿を伝い自らの手をも濡らす。それを五指で伸ばし唇を窄めると、三角が小さく呻いた。
「え、栄先輩・・・っ」
 三角が両手で栄一の頭を掻き抱いて離そうとした瞬間、中のものが膨らみ、爆ぜた。生臭くどろりとしたものが口内をべたべたと汚していくが、その背筋が震えるほどの嫌悪感に栄一は耐える。残滓まで唇の先を使い吸い上げてから、引き結んでようやく頭を下げた。飲み込もうと喉を上下させたが、込み上げる吐き気に口元を押さえ床に手を付く。三角はその肩を掴んで顔を上げさせると、さっき栄一が投げたタオルを押し付けた。吐き出させると、哀れなくらいむせこんだ。
「は、はふ・・・」
 肩で息をする栄一を椅子に座ったまま見下ろす三角の顔が曇る。
「なんで・・・」
 けんけんと軽く咳き込んでから、赤い涙目を三角に向け、そして逸らした。
「俺だって知らない。ただ、お前が変な顔すると、調子が狂う」
「それ、どういう・・・」
「・・・お前にとって俺は道具みたいなものだろ? だから俺が他の人と話して変な顔をする理由が、分からない。虐げるならするで、」
 徹底的にしてくれないと、妙な感情が湧いてしまう。気に、してしまう。
 そう言おうと向けた目が、三角の暗く翳った表情に驚いて揺れた。怒気が空気を伝うようだ。二の句も次げないでいると、中に入ったままの無機質な機械が急に息を吹き返した。
「あっ、ひ・・・っいや・・・」
「・・・もういい」
「はっあっ、何・・・?」
「もういい、と言ったんです。期待なんかしない。嫌われたって構わない」
 今週末、家に来てください。暗い声が部室内に響き、栄一は中からの刺激に浮ついた顔で三角を見上げる。もう、こちらを見てもいなかった。
「望み通りメチャクチャにしてあげますよ」




続。